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970812 JA09AW Dep. RJNT 08:14−08:25 Arr. RJNT 0h11m
JA09AW Dep. RJNT 08:50−12:55 Arr. RJAT 3h35m
フライトを積み重ねると、本当に恥ずかしいことが一杯溜まる。

なんてバカやちゃったんだろ、ということだ。運良く塀のこちらに倒れたから生きているようなもので、まかり間違えば天国か、地獄なのだ。

前日は北アルプスの撮影があった。関宿を7時前に離陸しているから、たいそう意気込んで出かけたはずだ。3時間半ほど飛んでひとつのピリオドを終え、富山に着陸した。昼食後、また2度目のピリオドをこなす。舳倉島まで往復し、能登半島の西側をなめて飛んで、やはり3時間半だ。燃料残を気に掛けて降りてきて、給油のことを考えた。

富山空港の燃料屋は昔はあったが、この時はどうだったか。今はない。あったにせよ、1Lあたり207円、「免税用紙」という不思議な4枚綴りの書類を書いて、後から1Lあたり26円の航空機燃料税を国に支払うことになる。

ひどく面倒な上に、自動車のハイオクと比べたら2倍以上もする。空港の外にある自動車用のガソリンスタンドでハイオクを買ってきて入れることにした。モーターグライダーは飛行規程上、それも許されている。

砺波平野


白川郷
普通の空港であれば、小型機のパイロットの出入りは、航空局の局舎の管制情報官室か、空港が県営であれば県の空港事務所を使う。たいていそれらは利用者の便を全く考えることなく、2階にある。ガソリンの携行缶(ポリ缶の場合もあるが)を3本も、4本もかかえて出入りすることは考えただけでも危険だ。そもそも重い。

富山空港には、エプロンに近い位置にどういうわけかゲートがあって、ガードマンがその開閉を管理している。2階に上がらなくても済むのは結構なことだ。で、知り合いのいる航空機使用事業会社の車を借りて街道まで行き、ガソリンを買って運んできた。そこへ夕立だ。ジャバジャバと降る。山が近いから雨も激しい。しばらく待てば上がるだろうと、エプロンに停めた車の中で雨宿りをした。

エプロンの奥に置かれた別のモーターグライダーがあった。知らないオーナーではないが、タイダウンもろくにされず、カバーもなく雨対策をしていない。どうやら車で飛騨高山へ出かけたらしい。放置するなら覚悟せいや、アホなやっちゃ、この雨に驚いて戻ってくるのだろうかと思いつつ、夕立のいまいましさを紛らわした。

小1時間もして、陽が差してきた。雨は弱くなった。「大丈夫だろう、給油するか」と作業を始めた。むろん雨滴が入っては怖いから、給油口を濡らさないよう気をつけた。

翌日朝は、当然のことながら燃料をドレインして異物がないか調べてみた。水があれば、ガソリンの底で水玉になって転がるはずだ。それはなかった。「結構注意したもんね」といいつつランナップした。何の異常もなかった。

富山空港は神通川の河川敷に滑走路がある。滑空場であれば例が多いが、まともな空港では河川敷滑走路はここだけだ。海に向かって離陸し、北陸自動車道のところで左に折れた。低い高度を維持したまま高速道路に沿って砺波平野へ向かい、散居村の様子を撮影しようと考えていたのだ。

富山空港の5nm西に至り、管制情報圏を出たという無線連絡をした直後、突然エンジンが乱調になった。ガキガキと振動して止まりそうになる。本当に止まりそうになるプロペラの、裏面のアンチグレアの黒を見たような気がした。

思わず離陸した空港へ機首を向けた。眼下に不時着できそうな場所はなく、高度は低い。視認する富山空港へのグライドパスは、ひどく浅い。空港には行き着けないにせよ、その対岸でもいい、せめて直近の神通川の河川敷には滑り込めないものか。

エンジン不調で空港に戻る、と連絡したが、高鳴る心臓をどうにかしてほしかった。なにせ低い。

乱調は、そんなとき自然に治まった。機械のくせに自然治癒とは、やっぱり雨滴だろうか。タンクの底は抜いたにせよ、燃料タンクからエンジンまでのパイプの中に雨滴が入り込んでいたのだろう。尾輪式の機体ゆえに、地上姿勢と飛行姿勢が異なる。姿勢を変えてドレインするなり、もっと長時間ランナップせねばいけなかったのだ。

そもそも雨降りの中給油するとは、バカなことしちゃったな、恥ずかしいな、と反省しきりだった。

戻った空港では、再度ドレインして確かめた。さらに15分ほど回し放しにして、怪しげな部分にある燃料を完全に使い切ることにした。慌てる乞食は貰いが少ない、だけではなく、塀の向こうに転がるところだった。

再度の離陸をし、砺波平野、五箇山合掌集落、白川郷、飛騨古川、高山、などを経由して松本空港に向かった。

午後になれば積乱雲も発生するのだろうが、風は弱く、晴れている。エンジンは先ほどのような、むずかる様子は全くない。谷間を横切る高圧線など気にかけながら、曲がりくねる庄川のV字谷をぬって飛ぶこともあった。

下に人の姿がないから許されるのだが、必ず谷筋のあっちとこっちを抜け道として把握して、時には水平面では旋回出来ないほどの谷間にも入っていった。内心では「大丈夫」と言い続けている。言い聞かせているのだ。本当は分からない。

この山奥の谷筋には、ほんのちょっとした段丘に耕作地があったり、どこから人が集まるのか寺があったりした。

人は、生きるとなれば、どこででも生きられるものなのか。ここは平家の落人伝説の地である。盛夏の緑はことのほか美しく、晴れた山村の風景は目にしみた。いろいろ幸運だったことを感謝せねばならない。
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