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000722 JA09AW Dep. Ohtone 12:12−15:10 Arr. Ohtone 2h58m
仕事で東京ヘリポートからヘリに乗る際、いつも気になる風景がある。 荒川河口を挟んで、東京ヘリポートや新木場の対岸の、葛西臨海公園である。

いかにも人工的に作った海浜がある。ふたつの洲があり、西側のものは橋が架かって人が往来できるが、東側のものは、どうやら野鳥の生息地のようだった。この人工海浜の西には東京ディズニーランドもある。TDLは何やら大がかりな工事を行っているらしい。

葛西臨海公園は、東京ヘリポートのすぐ隣、1nmも離れていない。ダウンウィンドの下といってよい位置にある。ひっきりなしにヘリが離発着するはずだ。この情報圏はコールサインHarumi Radioであるが、いずれにせよトラフィック・インフォメーションを随時得られる状況でなければならない。

TDLの先には、Urayasu Flight Serviceのコールサインを持つプライベート・ヘリポートがある。遊覧飛行など行われているのだろう。このあたりまで接近するとなると、ここにもコンタクトしなければならないかもしれない。結構忙しいフライトになりそうだ。

葛西臨海公園


稲毛の浜公園
改めてチャートを見ると、東京ヘリポートの情報圏は半径3nmと小径で、隣の羽田の管制圏が食い込み、欠けた月のような形をしている。しかも情報圏のトップは700ftでしかない。ボトムが700ft、もしくは1,000ftと設定された羽田のPCA(ポジティブ・コントロール・エリア)が上層に覆い被さっているからである。

このPCAは日本有数のシビアな空域である。進入機が列を作って降りてくるはずだ。ここを飛ぶには、羽田のAPPかRadarか、必ずその許可を得て指示に従わねばならないことになっている。

では、その下層は、700ft未満であれば自由に飛んでかまわないのだろうか。VFRのヘリが飛ぶのであるから、飛べなくはないはずだ。だが、最低安全高度はどうなるのだろう。

ヘリコプターは基本的に離着陸を目的にこの空域に入る。それゆえ最低安全高度の1,000ftを切ってもかまわないが、こちらは東京ヘリポートを利用する訳ではない。1,000ft以上を維持せねばならない。でも、許される高度は700ft未満なのだ。ローパスをするようなつもりで、この情報圏に入っていくことにする。

東京ヘリポートを目指して北から進入する場合は、荒川沿いに入ることになっている。そのルートをRoute NR.3という。荒川からオフセットした進入コースをとると、それは出発機が使うコースであるRoute NR.2やNR.4に接近しやすくなってしまう。だから川筋をいく。このルートの最も北側の位置通報点をKomatsgawaという。東ヘリの北北東約4nmに位置する京葉道路の新小松川橋東詰だ。

ここから荒川の真ん中を飛んで降下しつつ進入する。川の上なら電線や鉄橋がないかぎり、高度を落とせる。しかし河口間際には、待ち構えるように、湾岸道路やJR京葉線の鉄橋が存在する。そこが直近の位置通報点Sunamachi(Arakawa NDB)。ここで鉄橋を飛び越えると、荒川は河口となって、右手に東京ヘリポート、左手に葛西臨海公園、となるわけだ。

フライトする前の晩、1/10万の『首都圏詳細航空図』をよく見てイメージ・トレーニングを行った。そして当日の朝には、東京ヘリポートのCAB管制情報官に電話して、何時頃こういう撮影フライトを行う旨を伝えた。チャートを見ただけで、非常にデリケートな空域だし、そもそも慣れぬ空だから、何か勘違いや、思い込みによって法規制をバイオレートしてしまうかもしれない。

電話をすれば、局サイドとしても、その内容が妥当かどうかとりあえず判断してくれるだろうし、OKであれば、彼らも一定の覚悟と、それなりの予備知識の元に受け入れてくれるはずである。

幸か不幸か、「大丈夫ですよ」とのことだった。そうなれば後は、よく時間調整を行い、撮影実施予定時刻とさほどの狂いなくこの現場に到着することだった。

大利根を離陸し、下総の管制圏を通過させてもらって、松戸の辺りで少し旋回し、ついでに町並みや公園などの撮影を行って、頃合いをみて荒川を下った。

「Harumi Radio, JA09AW」
「Go ahead」
「9AW, over Komatsgawa, 1,500 え〜、これより葛西臨海公園の撮影のため進入します。よろしくお願いします。Descending to 700」
「現在、no trafficです」

川沿いに降下していくと、飛び越えていく正面の橋はともかく、川の両サイドにある煙突や鉄塔(370ft〜500ft)が予想外に高く見え、緊張した。湾岸高速を超えてすぐ左旋回。500ftで撮影を始めた。700ftを超えないように特に注意せねばならない。

海の上は、人影がなければ海面すれすれまで降りることができる。一方で、大きく旋回して公園を陸側から撮ることは不可能だ。そこには、マンションなどあるから、人口密集地の扱いで、最低高度は1,000ft以上をとらねばならない。しかし、その高度は羽田の管制に従うPCAである。だから海の上からのみの撮影となる。幸いにして、海から見れば順光だ。

機体の陰が干潟をなめていく。パワーを絞ってあまり音を立てないように低速でいく。いつぞやヘリの空撮を行っていて、野鳥の会にしかられた事がある。鳥を観察するほどだから、JAナンバーの割り出しなど簡単だったはずだ。

あのときはローターのダウンウォッシュが画く水紋を撮りたくて、関東平野で静止水面を探した結果、渡良瀬遊水池はどうかと思い飛んでいったのだ。で、水面の上でホバーしてもらい、別の機体から撮った。撮れたものは狙いどおりの絵だったが、あそこは「Bird Sanctuary」に指定されているのだそうだ。それを知らなかった。知っていれば別の場所を考えただろう。いずれにせよ野鳥観察などに興味がなければ、知る手だてがないのである。

アメリカの場合であれば、航空が一般のものであるがゆえに、そうした場所については必ず航空図に記載がある。その場合、対地2,000ftがミニマム高度なのだ。日本の場合は縦割り行政の傾向が強いせいか、航空図に記載がない。ここになければ、あるいはNOTAMが具体的に出ていなければ、パイロットの認知はとても小さなものになってしまう。そもそも誰もが使う日本の1/50万航空図は、国が発行してはいないのだから、一般性という意味ではもっと遅れている。

東側の中州では、一部の鳥は飛び上がったが、幸いにして一団を大きく混乱させることはなかった。飛ぶ鳥と干潟に写るその陰が、そこだけ二重写しのようになって見えた。なんなら、ややリスクはあるものの、モーターグライダーの特性を生かして動力を停止して空撮してもよかった。騒音という意味では極限まで小さくなる。

あっさり撮影を終え、舞浜のTDLを見、その先の壮大な工事現場を見、埋め立て地の海岸線に沿って千葉に向かう。

ボトム1,000ftのPCAの、さらにその下をうろうろ行く低速機がいては、羽田の管制にも迷惑をかける。おそらくレーダーのスコープを見る人は、所々でむやみと旋回することで、こちらのインテンション(意図)がどこにあるのか余計に気懸かりなはずだ。

Harumi Radioから離れてTokyo TCAを呼び出した。レーダーで具体的にモニターしてもらう。TCAは日本語の交信が多いこともありがたい。

海岸線に沿って500ft〜1,000ftでいく。PCAがなくなる稲毛の浜公園のあたり、弧を描く防波堤の中が何やら騒がしい。

暑い土曜日の午後とあって、疾走するウィンドサーフィンの相当な数の群がある。かなり地上風が強いのだろう。防波堤の内側はうねりは消されているものの、波が立っている。そこを疾走する速度にも、旋回時に流される分量にも、風が分かる。

それにしても、これはなかなか都会的な風景だった。背景となる千葉のビル群に加え、防波堤に囲まれたウィンドサーフィンというところに、そのイメージがダブるのである。何かを守る人工構造物、比喩としての防波堤、そうしたものは田舎にもあるだろうか。まして空を飛ぶことにはあるだろうか。VFRで飛ぶ限り、たとえ都会の上空であっても、自然に対して丸裸なことしか感じないのだが。

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