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021122 JA09AW Dep. Ohtone 15:28-17:48 Arr. RJSS 2h20m
ナツの上京

天気予報が悪いにも関わらず、ナツが北海道から出てきて、「ナイト」とせがむ。

貧乏学生が3週間前に大枚叩いて買った片道9,000円の航空券を無駄にしたくない、というのだ。そもそも、こちらも世界一の「無秩序の夜景」、東京を撮る必要があった。

VFRで夜飛行しても、機体が夜間飛行を承認されていれば、何の問題もない。大利根を4時頃離陸して、日没後1時間ほど都内上空を飛び、降りられる空港へ向かうという計画だ。

で、最寄り空港は、仙台。ま、近くはない。空撮後、すぐ降りたいが、2時間かかる。

夜の飛行は、バックアップが得にくい。例えば、エンジンの不調に遭遇したら、どうする。昼ならば、どこにでもアウトランディングできる。選択できる滑空場や飛行場は多く、何の施設もない河川敷であっても、いざとなったら使えるはずだ。夜は、何があっても、計画通りの飛行場に向かわねばならない。

仙台


仙台
雲はどうか。昼間なら、見える。夜は雲の発見一つが難しい。夜インクラウドしたときは、何で周囲がボンヤリしちゃったのかな、とまず迷う。雲に入ってしまったという自覚を得るのに、時間がかかる。そしてウロウロすると、バーティゴに陥りやすい。未熟な時代に本当にヤバかったことがある。

簡単な話、全部が全部、完璧という条件でないと、うまくない。
前日の夜まで、予報は暗いものだった。
降雨確率20%や30%の曇りで、昼でも飛んでいけるかどうか分からん条件なのに、まして夜飛べる訳はねぇよ、諦めな、という感じだった。で、1時半まで飲んだ。ところが、起きて朝6時のNHKの気象情報。思わぬほど好調なのだ。そんなら思い直すか、となった。
でも、9時10時になっても、青空はどこにもない。ぬか喜び、裏切りの天気だ。

NHKの取材

昼頃、NHKのTVの取材があった。GPSと事故とのからみについて、コメントせよというのだ。その担当記者はそうでもないようだったが、不勉強な大マスコミの記者は、短絡的に道具を事故原因に結びつける傾向がよくあるので、注意して話をせねばならない。

「道具は、GPSに限らず、どんなものでも使いようで、その使い方を支配するのは、その人の出来方、性格といったものです。GPSは買えても天気は買えません。小型機の事故の大半は天候に関するミスジャッジです。

なぜそこで飛んだのか、なぜそこで引き返さなかったのか、これは道具のせいではなく、その人の判断がすべてなんです。うまく使えば、GPSほど便利で、これほど正確な道具はありません。

また、カーナビなどを搭載している例もあるように聞いていますが、あれは意味がありません。空は地上から見上げただけでは何もない自由な空間ですが、飛ぶ身にとっては、目に見えない法規制のジャングルです。

ゆえに、航空用の(ジェプセンなどの)データベースがマッピング・デスプレーに表示されるようなものでないと、意味がないのです。なぜ航空用を使わずカーナビか。マニュアルや器機の表示ひとつが英文で、使いこなすことが面倒なのでしょう。『逃げ』があるように思います。(実質的にどこかの国で免許を買ってくる事も含めて)逃げていては、技量は身に付きません。GPSを参照するに留められるだけの経験を、上手に積み重ねていくことが必要ではありませんか」

偉そうな大口を叩くと、ソレミタコトカと言われる場合もあるだろうに、と思いつつも、収録につきあったのだった。

「ほら、行くぜ」

で、その直後に、こんな悪い条件で、計画通り日没間際に離陸するのか?うんざりだなぁ。やめようぜ。「え〜、だめなの〜」

ナイトのタッチ&ゴーなどの訓練に、大利根から仙台に行くセスナ172があった。これは、明るいうちに早く出て、仙台で夜を迎える計画だ。
そして天候は、関東平野はど〜んと曇っているが、福島浜通以北は晴れていたのだ。

「後の席なら空いてるよ、操縦は出来ないが、ちんまり座っていく? 夜景は見られるよ。109は行きたくなさそうじゃん。どうする?」
ナツに中澤さんが提案した。「どうしよう、どうしよう」

明るいうちに曇ったエリアを通過する。これなら、たしかに飛べそうだ。そして、東京の夜景は撮れなくとも、仙台の夜景は撮れる。そんなら行くか、とぼくは気を取り直した。「ほら、乗れや、行くぜ」

そんなわけで、セスナに先行すること10分、3時半に大利根を離陸した。1,500ft以下でしか飛べない条件。百里レーダーにモニターしてもらい管制圏の東をかすめて海に出た。

日立で日没。小名浜で街路の光が目立ちはじめ、コクピットの計器を照らすパネルライトの赤い光が明らかに作用しはじめた。そして福島第2原発アビームでは、雲が消えた西の空に明るみが残るものの、完全に夜になった。遥か太平洋上には、思いの外多くの漁船の灯が見える。

5kt差か、ゆっくりゆっくり追いついてくるセスナと時々交信し、仙台を目指す。ナツはまぁまぁ真っ直ぐ飛んでいるので、いざという時の懐中電灯の在処を確認して、無線機の赤い周波数表示以外の全部の光を消した。夜に包まれる。すべてが、写真ではなかなか再現できない独特の青。

仙台TCAと交信し、3,000ft以上に上がるよう指示を受け、仙台管制圏を抜けて仙台市街の夜景を撮りに行く。駅を中心に、光の海。

「どうだ、きれい?」
右席、ため息しか出てこない。
「これで、約束は果たしたな」

でも、撮影が大変。昼間でも交換のやっかいなブロニー・フィルムだが、スプロケットの穴が、暗いコクピットで探せない。

いつもは長巻220フィルムだが、プロビア400Fは短い120のものしか製品にない。645判で16コマ撮ったら交換しなければならない。このもどかしさ。やはり、やってみなくては分からないことが多いのだ。

セスナは空港の短い方のRWYでタッチ&ゴーをしている。ひとしきり撮って、空港に向かい、着陸した。仙台空港の南エプロンからは、出口を探すのが大変なのだ。夜となると、使用事業各社も閉まってしまうし、簡単には空港の外に出られないので、燃料屋さんにお願いして2機のクルーとも一緒に外に出させてもらう。このあたりの劣悪な事情は、いつか詳しく書きたい。

夜は、市内で牛タン屋。よく流行っている美味い店だった。セスナの練習生の藤沢さんに、オンブにダッコで甘えてしまった。
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