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 (4)

(4)感性を研ぎ澄まして

こうして上空から日本の国土を見ていますと、どういうわけか国粋的な気分になってくることも感じます。

決して、国民的特殊性を最良のものとは思えませんし、決して、排他主義的にそれを維持発展させたい気持ちなどありません。そもそも上空から見る人の営為に晒された地形の唖然とする様が、そんな右翼チックな気分には、とてもさせてくれません。

しかし、日本の長い海岸線の中には、人の営為を許さなかった自然のままの地形が、数多く残されています。それがことのほか美しい。それはこの国の固有の長所ではないか、と思います。


例えば隠岐の新緑の心躍らせる色。

あるいは三宅島の崖に流れ出た滝が、海中に吸い込まれていくのが見られるほどの海の透明感。

自然に意志というエネルギーがあるに違いないと思わせる野付半島やサロマ湖の砂嘴の造形。室戸岬、潮岬、あるいは天竜河口に見る潮の激しい流速。

今までずいぶんそうしたものを見てきました。抽象化された地図からでは発見できないシーンが、まだこの国にはたくさん残されています。

きっともっともっと多いに違いありません。感動を呼び起こすものは、なにも海岸線ばかりではありませんし。それをひとつずつ拾っていきたいと考えています。

自分で操縦して飛ぶと、もうひとつ面白い事実に気がつきます。

上空から見た風景には時代を透視する力があると書きましたが、フライトそのものも、時代を追体験することの連続でもあるのです。「モーターグライダーで旅をすることは、遣唐使船の航海とちっとも変わらない」、これが日々の強い印象です。

モーターグライダーには、旅客機や軍用機が持つような立派な航法計器はありません。計器に頼った飛行はできません。実際に地形を見ながら飛行する有視界飛行を行っています。

そして空を飛ぶことの大敵は、どんな機体であっても天候なのです。今、かなり確実な天気予報はありますが、低層を飛ぶ私たちにとっては、峠を越えたら雨だった、という例はこの時代になっても枚挙にいとまがありません。

また、好天はあっても、4日は続きません。天気待ちで目的地に辿り着くことだけに日数を費やしてしまうと、次の東京での仕事が待っています。

仕方なく遠出した地方空港に機体を預けて東京に戻り、猶予のない仕事を数日間で片づけ、再度撮影と機体の引き取りに出かける、なんてことはしょっちゅうで、まったく予定がたちません。二重に交通費をかけるなんてばかばかしいと思うのですが、これが小型機で飛ぶ現実です。

それはおろか、あわや難破ということもありました。じつは対馬北端の上空から韓国は50kmしか離れていません。ゆえにいつか飛んでいきたいと思っていましたが、99年5月、それが実現しました。ソウルの南100kmほどにある清州(チョンジュ)という所にプサン経由で飛んでいったのです。

韓国はいわば臨戦国で、そのためか小型機が非常に少ない国です。ゆえに、その分野の常識がありません。リスクある天候にもかかわらず、プサンに留まることは許されませんでした。

その結果、目的地手前35kmほどの山がちなところで、低い高度であったにもかかわらず雲に入りました。その時、姿勢を見るための計器が壊れていて、操縦不能に近い状況に陥りました。ミルクの中で泳ぐような何も見えない雲中で、墜ちるぞ、ともがきながら、「もうだめかもね」と同乗者に語りつつも、遣唐使船の鑑真和上も同じ様な目に何回もあったのだと感じました。

何事もなければ、空を飛ぶことは非常に楽しいことです。でも、何があっても不思議ではないことも、空を飛ぶことなのです。

ゆえに、人間のもつ感覚というものを、すべて研ぎ澄ませておかねばなりません。すると、上空から見た風景に、いろいろなことを感じることができるような気がするのです。

自分で飛ぶから何かが撮れる。かなり大袈裟な意見かもしれませんが、もしそれが事実なら、こうした部分が助けになっているのではないか、と思います。
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