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 (3)

(3)空から歴史を透視する

上空から見ることは、歴史を透視するということでもあります。

海岸にまつわるものを取り上げても、いくつかの例を上げることができます。例えば有明海の干拓地。年月を経て徐々に干拓地か海へ広げられていったことが、田畑の輪郭の縞々ラインで一目瞭然に分かります。

あるいは大仙陵。
この仁徳天皇陵と宮内庁が定めている古墳では、その周囲は今でこそ陸地ですが、大阪湾の海面とさほど高度差がありません。そして周囲の現代的な構造物を一切取り払ってしまい、そこを海と想定すると、これは海浜に生まれた偉大なランドマークだったに違いないという感銘を受けます。


奈良盆地に発した古墳というものが、このような海岸線に移動してきて出現し、そのスケールも偉大なものとなった背景には、それを必要としただけの歴史的事実がきっとあったのだろうということに思い至るのです。

空気が澄んでいたその時代なら、大阪湾のどのあたりから偉容を見ることができたのだろうと、イメージは膨らみます。残念ながら海側には関西空港が誕生し、小型機はそれを確かめられる空域にはなかなか立ち入れませんが。

日本海を見れば、秋田から酒田にかけての海岸線では、松林?を切り開いた集落の形が、固まって丸く特徴的です。外敵から身を守るためキュッと固まった群となったシマウマ、といったら失礼でしょうか。

それにしても、なぜこうした集落が形成されたのか、それが海岸線に所々似たような形で現れているのは何故か、上空から眺めながら、やはり考えたくなります。

車力だったか、木造だったか、津軽半島の七里長浜に、破船が打ち寄せられていました。距離長く緩やかにカーブを描く美しい自然の造形の中に、ポツンとある、かなり大きな汽船です。人間対自然の闘いの結末を物語っています。

山陰の海岸では、浜に墓場がありました。荒海に揉まれるようにたたずむ墓石を見ると、中には悪天候と闘って亡くなった漁師もおられるのでしょうが、墓に入ってもなお自然と闘い続けているのではないか、と思わせるものがあります。

鳥取砂丘では、上空から見た砂丘のスケールがあまりに小さく、それが非常に日本的なものを感じさせてくれます。周囲は植林され、砂の面積が押し込められていった努力の結果でしょう。これだけのことができるなら、サハラや黄河源流の荒地化も人の手で防げるのではないか、と予感させてくれます。

瀬戸内は「瀬戸の花嫁」的な情緒があって、のどかな陽光のイメージですが、例えば家島群島の男鹿島など、高度成長期の関西方面のビルの砂利の採掘によって、島の体をなさないほど削り取られています。

同様に、産廃汚染の豊島もわすれることができません。一島全体が精錬所に化けた島もあります。昔あった塩田も、もうかろうじて形骸が分かる程度です。いずれも、人の営為の結果です。

また近代史では、例えば対馬の浅茅湾。典型的な溺れ谷です。上空から見ると、芭蕉の「ああ松島や〜」などよりも浮かぶ島の密度が濃く、はるかに絵になる風景です。

そして日露戦争当時、帝国海軍はバルチック艦隊が通過するコースを対馬海峡と賭け、それを迎え撃つために、艦隊主力を巨済島が地形的にガードするプサンの西の鎮海湾に、そしてこの湾内に、夜襲の接近戦を主眼とする水雷艇を潜ませたのでした。なるほどと思わせる選択です。

ちなみに対馬は上島と下島の2島からなる島ですが、昔は細く地続きになった所があり、後に水路ができて、大船越という地名となっています。船が陸を越えたわけです。水雷艇もここを通って出撃しました。

対馬は、朝鮮と九州を結ぶラインを遮る形で横たわっています。そしてこの島最大の街、厳原は九州側に位置しています。古来よりの半島と列島の船による交流を考えたとき、この地峡の不便さは相当なものがあったはずです。水路が開削されたのは1672年のことで、島民を動員し半年で完成したといいますから、この水路は熱望されていたのでしょう。

ちなみに軍港は、横須賀も呉も舞鶴も、鎮海府も、外洋との出入り口が小さな、複雑な地形をした湾内に設定されてきました。通常戦の場合はこの地形の利は非常に有効ですが、核戦争となった場合は、かえって一挙に戦力を失うことになる・・・・・のではないか、ということも想像させてくれます。

冷戦は歴史的に彼方の事実になりました。しかし今、北朝鮮はノドンやテポドンといったミサイルをもっています。これらが、どの程度の精度と弾頭の威力をもつか私は知りませんが、海岸線の地形をひとつ見ただけで、やはりイメージは膨らみ、飛躍するのです。
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