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991121 JA09AW Dep. NAGANO 06:27−08:23 Arr. NAGANO 1h56m
風景、特に山岳の空撮は、朝が決め手だ。理想を言えば、日の出の遅い冬ですら 07:00には山頂の上空にいたい。夏ならば、05:30といったところだろう。

しかし、ホームベースの関宿からでは、北アルプスに進出するのに1時間半はかかる。離陸を日の出後にするにせよ、そんな早朝では騒音苦情は必至だ。で、前日から前進待機ということになる。11月の連休に、長野市郊外の千曲川河川敷を使う長野県航空協会長野支部におじゃますることにした。ここのクラブ施設は宿泊も可能だ。

前の晩、なかなか寝付けない。が眠ってしまうと、今度はやたらと目が覚める。時間管理はきちっとできるか、地上では予測できない山岳の気象はどうか。緊張しているのだ。結局3時半には完全に目覚めてしまった。

穂高


穂高
この連休、クラブ施設には10数人のグライダー愛好家が宿泊していた。数人の、お手伝いをかって出ててくれた人以外を起こさないように気をつけたつもりだが、ごそごそしたせいか、結局全員を起こしてしまった。申し訳ない。

長野滑空場の滑走路は、河川敷の占用許可を取得しているわけではない。無神経な人が立ち入ると滑走路面が荒らされ、轍などできて安全性が保てないため、夜間は20 台ものバリケードを置いて無用の車両の進入を防いでいる。が、早朝となれば、それを取り除かなければ離陸できない。屋外は非常に寒く真っ暗闇だったが、車のライトを頼りに宿泊していた全員が総出で滑走路を作ってくれた。自分が飛ぶのではなく、このぼくのミッションのために、だ。

この準備の時、東の空は白む気配もない。機体のランナップも、車のライトを手がかりに暗闇の中で行うことになる。日常と異なる。気分も何かしら高揚する。ゆえに、何か点検のし忘れがないか、非常に気になるところだ。

そもそも結露して主翼に霜が張り付いてしまうと離陸できないので、前日係留時にはこのクラブの他の機体のカバーを貸していただいたのだ。エンジンを始動すると、プロペラ後流がバサバサさせるが、タクシーアウト直前までそれを外さないことにする。が、キリキリするほどの低温のせいで、なかなかエンジンの油温が上昇しない。

前日、フェリーの前に、「冬」へ行くのだからと、一旦は冬装備のオイルクーラーのエア・インレットを塞ぐプレートを取り付けて離陸したのだった。しかし低空ではオーバーヒート気味だった。結局戻って着陸し、取り外して再離陸したのだった。だがここは関宿とは違う。未明は本当に冬だ。10,000ftの山中は、もっと厳しいに違いない。

コクピットはヒーターのせいで少しずつ室温が上昇してくる。しかし吐息で風防が曇りがちだ。外では凍えて見守る人もいる。責任は重大、プレッシャーも過大。

日の出の30分前から飛行は可能だ。だが、滑走路が十分見通せない。明るければ避けられる滑走路面の凸凹も、出たとこ勝負で引っ掛けるかもしれない。そもそも機体のランディング・ライトが路面を照明するのがまだ分かる明るさでしかない。

周囲を見渡してみる。白み始めると、悔しいかな、微かに見える北アルプスは雲が被っていることが分かる。飛んで行っても無駄なのだろうか。だが、今更止めるとはいえない。撮れなくとも、撮れなかった証拠だけでも撮って来なければ、未明に起きて手伝ってくれた人に申し訳ない。

早朝の散歩などする人が滑走路に飛び込んで来なければいいが、と念じて離陸した。誰も、こんな時刻に運航される機体があるとは思わないからだ。

エアボーンすると、今度は十分なパワーを感じない。やばいな、と思う。風邪をひいたエンジンのようだ。クライムが悪い。ぜぇぜぇいう感じだ。その上、1回咳き込んでくれたのだ。乾いた零下の気温でアイシング? 油温の低温? 何?

こんなときは急いても仕方がない。いつカットオフしても滑走路に戻れそうなポジションをキープできるコースどりをしつつ、とりあえず速度を落とし、ピッチを上げてパワーで釣るようにする。それがエンジンの冷却気の導入を抑え、エンジン全体の温度が上がるような工夫だ。もし、何やら事があるにせよ、現象が顕著になってから後追いでも対処ができる態勢をとり、簡単には諦めないで高度をとっていく。高度が上がる分、前進できる。

そうやって近づいていったのだが、雲を避けてコースは幾たびか変更した。その結果、ようやく7,000ftで見ることができた北アルプスの南端は、どうやら雲の上にあるようだった。行くなら穂高だ。

穂高上空12,000ftの早朝。

この一群の山頂だけが雲の上に顔を出していた。浅い角度で差し込む朝日、それを受けて赤く輝く雲、陰影豊かな山の氷壁。ファインダーを覗くと、一丁前の山岳写真家になったような気がしたのだった。ここだけしか撮れなかったにもかかわらず、奇妙な満足感があった。

たった1コマ2コマの成果ではあったが、長野県航空協会のクラブ・メンバーの協力がなければ、それすら得ることはできなかった。改めてお礼を申し上げるとともに、また夏の再挑戦をお願いしておきたい。
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