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前回、3年前だか秋田に来たとき、2種だからとばっかり思いこんでいて、県管の存在を忘れていた。プランをファイルして、タクシーアウトしようとしたら、秋田RDOに「ちょっとSTOP、着陸料は?」と問われた。「ありゃま、申し訳ない」とエンジンを止め、県管に出頭して支払いをしたのだった。秋田は2種Bの空港なのだ。2種Bは国営ながら県に業務委託をしていて、結局3種と一緒だ。3種や2種Bの場合は、離陸前に着陸料・停留料を支払う。普通の2種は、あとから請求が来る。

その記憶があったから、今回はエプロンから真っ直ぐターミナルビルの県管のある方へ歩いていった。

ターミナルビルのバゲージクレイムの裏手を歩いていくと、手荷物を運ぶエアラインの職員が、なにやら鋭い目でこちらを見ている。なんだテメェ、ガンつける気かよ、と言いたくなるまなざしだ。相当怪しいと思われたのだろう。

かまわずずんずん進んでいき、ビルの西のはずれの、そろそろ県管に行く階段があってもおかしくないあたりにさしかかったら、ばらばらと人が出てきた。中には警察官もいる。最近空港はセキュリティが厳しくなったというが、この激しさは何じゃい、と思う間もなく誰何された。

「何処行くんですか、何処からきたんですか」
「機体から降りて来たに決まってんだろうが。県管に行くんだぜ」
「出口はこっちじゃないですよ」
「県管はこの上にあるんだろうが。そこの階段から上がらせてくれていいじゃないか」

出口を確かめなかったのは当方の完全なミスだし、これは無理難題というものだ。大人げないが、だけど、突っ張りたいんだねぇ。
「どこにも『小型機利用者出口』なんていう大書きした看板はないし、だからこっちに来たんだぜ。荷物だってあるのに、戻ってもう1回大回りしてあっちから出ろというのか。初めて来るパイロットはまごつくぜ。不親切きわまりない欠陥空港じゃないか」

いつも日本の空港の小型機利用者不在のありかたに不満をもっているから、爆発しそうになった。そこで、警察官の目がギラっと光った。




じつは、日本の空港の小型機に対するありかたに、どれだけ紙幅を費やしても収まらないほどの不満が底流にあって、自分のミスを棚に上げて爆発しそうになったのだが、目の前にいる人には伝わるわけはないし、責任があるわけでもない。ギラッと光る警察官の目にも抗えないので、すごすごと出られるゲートにUターンしたのだった。

なんで警察官が居るのだろうと思ったら、小泉首相が選挙遊説だか何かで、数時間前に秋田入りしたのだそうだ。それでセキュリティが厳しかったのだ。フェンスの外にも何人も警察官が屯していた。暴れなくてよかった。

そんなわけで、ターミナルの県管で使用申請を書いて、エアライン用の搭乗ロビーに来たときには7時半近くになっていた。
秋田空港の運用時間は午後9時半となっている。秋田までは気楽なフライトではなかったし、一区切り付ける意味でもビールの一杯が欲しかった。空港はまだ2時間も開いているはずだが、ロビーに3軒あるレストランは、最終便のエアラインを待つことなく、丁度閉店となったところだった。レストランに限らず、空港のサービスはことごとくシャットダウンされていくのだった。
ビールにありつくには、バスに乗って市内に行き、早くホテルにチェックインするしかない、と思い、バスの発射時刻を見たら、たった3分前、25分に出たばかりだった。市内行きの最終バスは、9時過ぎて到着する最終便に合わせて出るとのことだったが、とてもそこまでは待てなかった。

外のタクシー乗り場に1台だけ残っていた個人タクシーを捕まえて、市内へ向かうことにした。これには7,000円もかかる。ここは市内から遠い空港なのだ。小型機利用者出口がすぐ分かれば、こんな無駄遣いはせずにすんだ。
ツケは、因果応報のようにまわってくる。

翌日、本番の日は、早く起きて朝食はターミナルでとることにした。
午後一の本番まで、結構時間をつぶす必要があったが、秋田にも「管制官」がおられ、そのうちの一人は、滝川のサマトレに参加され、ソロにも出られた、ということが分かったのでCABに会いに行った。

秋田は今は管制官ではなく、管制通信官がいる空港だが、秋には管制圏が出来、管制官が常駐する空港となる。その準備業務のために、既にこちらに勤務されているのだ。
RDOの空港からTWRの空港への変更は、釧路、石垣、青森、そしてこの秋田となるが、それによって、エアラインが各機のトラフィックが接近したとき、ホールドする機会が大幅に減るとのことだった。

管制官は、航空を担う重要な技術者である。ぼくたちは、そこで要求される技術レベルに自分を適合させようと、日々努力しているつもりだ。
努力はしているが、小型機の運航者として、管制に限らず、空港をとりまく現実において、ぼくたちが何に悩んでいるか、理解してほしい、改善してほしい、と願う問題点も少なからずある。たとえそれが管制官の職掌にない事柄であっても、航空に関わる技術者なのだから、機会あるごとにそれを伝え、相互理解を深めることができると、円滑な運航が一層見えてくるのではないかと思う。分かってもらう相手として、自らも飛ぶ管制官というのは、真っ先に理解してもらえそうな貴重な存在だし、知り合いになっておきたかった。

グライダーのソロ、おめでとうございます。今回はまた、空港内での300ftの低空飛行などお願いして、まことにすみません。
いつも下手ピィなATCでご迷惑をおかけしているんじゃないかと心配ですが、管制官の皆さんには、一度はモーターグライダーというものを経験しておいてもらいたい、と常々思っています。

那覇に着陸したときでしたが、20ktの風のなか、ダウンウィンドで15分ほどホールドすることになったんですが、トラフィックの隙間を見つけてくれた管制官が、早く降ろしてあげようと、Extend Downwindと言われるんです。通常アプローチは60ktですからね、いくら間隔があっても、あの忙しさと向かい風じゃぁ、すぐ後続機に追いつかれてしまう。ヤバイなぁと思いつつも、言われたからには遠回りするんだけど、今度はイエローゾーン110ktで頑張って降りていっても、なかなか行き着かない。こちらが誘導路に入った途端、自衛隊機のタッチダウン。こんな時は、だいぶ緊張しますね。

これは、本来なら運航情報官に申し上げる話なんでしょうが、2種空港と2種Bや3種空港では、あとで請求書がくるのと離陸前に支払うのと、着陸料・停留料の支払い方が違いますよね。利用者にとっては同じ方法が一番いいわけです。行政のシステムを変えることなくどこでも同じような支払いにするには、『CABJCB』とか『CABVISA』とかクレジットカードをCAB主導で作ってもらい、情報官室のカウンターに読み取り機械を置いて、着陸後カードを通せば一切チャラになる、なんて方法がとれませんかねぇ。付帯する航行援助施設利用料も、あるいは空港で給油した際の支払いも、一切それで済ませてしまえるような、便利な新しい方法を、ぜひ導入してほしいんです。

燃料なんかについてもですよ、日本では奇妙なAvGas信仰がありますよね。あれ、モーターグライダーの運用者には困るんです。何故か。セスナは5,200cccのエンジンで150馬力、ウチのは2,500ccで90馬力です。圧縮比を高めてパワーを出しているわけですね。原設計が古いセスナのエンジンは、ガサガサに出来ていて、鉛は有効なんでしょうけど、高圧縮のエンジンでは、スラッジがバルブまわりに付着してエンジン不調の原因となるし、冬季には始動不能になったり、状況がひどくなると、エンジンのトップ・オーバーホールということになって、数十万円の出費になったりもする。そんな経験をしたから、空港におけるハイオクの給油も、航空の安全のために、ぜひ実現できるようにしてもらいたいですねぇ。

日頃感じている問題点を、それが管制官の扱う分野ではないにもかかわらず、いつの日か伝わってほしいと思い、申し上げたのだ。99%はIFR機が相手というベテラン管制官にも興味をもっていただけたような気がした。
そして最後には、「午後の救難隊の空撮、頑張っていい写真を撮って下さい」と激励されたのだった。プロが注目している。間違いのないように事を運ばねばならない。

秋田は、もやもやの天候で、視程が悪かった。
管制官の皆さんに力づけられたりはしたが、ローカルの空撮は、ま、空が明るいから何とかなっても、大利根に安心して帰着できるかどうか、それが心配だった。
時間に余裕があったから、気象に行ったり、帰りのことを考えて給油したりした。

11:00、救難隊へご挨拶と打ち合わせに行った。
自衛隊らしいのは、エプロンに機体を並べ、その前に人文字で「AKITA」と描くというお話だった。とてもありがたいのだが、他の部隊では、いわゆる作ったような絵は撮っていない。自然な感じで統一感がほしい。そこで、「人文字」のものと、人が機体の周囲に屯した「自然な」ものと、2種の撮影をさせてもらうことにした。
1種類の絵に対し、3回の旋回。横位置、縦位置、露光を高度をちょっと変化させたもの。「人文字」が撮れたら、一度現場からブレークし、フィルム交換。再度進入し、集まった人がバラけた「自然な」ヤツを、同様に3回の旋回で撮る。
「で、撮影機と地上との連絡方法は?」
「まことに申し訳ないんですが、ウチの機体は無線機はひとつしかありませんから、秋田RDOには毎回の進入時、インテンションを送信しますので、それをモニターしていただくしかありません。直接交信ができませんが、なにとぞこれでお願いします」
常に自前の周波数をもつ自衛隊では、なかなか例のないことだが、仕方がない。
「本番10分前にはエプロンに人を揃えますから」
「私も10分前には離陸して、態勢をとりますので、よろしくお願いします」

そうなると、あとは正確な時間管理をすることだった。
11:20県管理事務所で着陸料・停留料の支払い、11:30昼食、12:00情報官室、12:10気象、12:20撮影準備、12:30機体ランナップ、12:45タクシーアウト、12:50ブレーキ・リリース。
情報官室では、「何か事あったら、自衛隊と話をするのにRDOの周波数をお借りするかもしれませんので、その節はよろしくお願いします」と用心のためにお願いした。

調整だ、申請だと関係機関を巻き込んで、いろんなことが事大主義的にならねばいいが、という懸念があった。しかし、勝手な思いこみかもしれないが、技術者としてプロとして、特別な要求にも応えてやろうという気持ちを感じた。結構支援されているという印象が強く、とても幸せなことだと思った。そうしたプロの気持ちに答えるべく、破綻のないように進めようと自分に言い聞かせた。ホント、これはなかなかの自分に対する心理ゲームなのだ。

オンタイムにエアボーン。高度をとらないから、早めに左旋回できる。回ろうかなと思ったところが、救難隊エプロンだった。もう人文字が描かれていた。
約束の待機場所でホールドすると、55分アライバル予定のライン機が秋田RDOにコンタクトしてきた。少し遅れているのか、着予定は03分となった。それまでに前段の人文字撮影は出来るか? 出来る様な気がしたし、自衛隊員の皆さんを暑いエプロンに立たせっぱなしにするのも申し訳なく思えたが、そこでグッと踏ん張って安全サイドに決め、ライン機が着陸するのを待つことにした。

JAS塗装のMDが誘導路に入るのを見定めて空港敷地内に進入した。300ftAGLは、やっぱちょっと高いかなと瞬間思ったが、フィルム・フォーマットが645と大きいから、決めた予定高度から変更なく進めることにした。見事な「AKITA」の人文字が眼下にあった。

秋田からの帰り、情報官室でとてもいいものを見つけた。帰りのルートをプランに書くために、壁に貼られた1/50万航空図をみたのだ。すると、なにやら航空図の表情が違う。アレ、東北航空図は新版が出たのかと思った。

東北地方のどの空港も、空港を中心に、黒いラインで、計器進入のアプローチ・パターンが描かれていたのだ。
RJSK(秋田)だと、OMONO SOUTH ARRIVALからVOR/DME RWY10に入る場合は、エアラインはこうやって入ってくる、KENDI SOUTH ARRIVALからVOR/ILS RWY28の場合は、こうだ、ということが一目で分かるように図示されている。

「で、この航空図は新版なの?」と聞くと、「あ、それはウチ(秋田情報官室)で貼り付け用のシートを作ってみたのです」ということだった。
カウンターの脇に商品棚があって、『HARITSUKEYO  関東甲信越 1』とか『HARITSUKEYO  東北 2』とかのシートが置いてあった。CABが新手の商売を始めたのか、まさかとは思ったが、「お代は?」と聞きたくなるほど商品のような顔をしていた。しかし、PPC用ラベルシートに印刷された手作りのもので、必要部分を切り取って、航空図のVORやFIXの方位に合わせ、貼り付けるものであった。
「もちろん無料で、必要な方に差し上げています。全部で5種類あるはずですが、品切れのものがありますか? ご入用なら、今プリントアウトしますが」

全部揃うと、RJAF(松本)やRJNT(富山)から東北・北海道の全空港について、アプローチ・パターンが貼り付けられるという。なんだか素晴らしいオミヤゲに思えて、全種類をプリントしてもらった。航空図の新版が出たら、それに貼り付けようと思った。

こうした、小型機利用者に対するちょっとした心遣いが嬉しいのだ。一瞬にして、その空港のファンになる。
よその空港の管理者も、心遣いとは言わないが、管理の顔を前面に押し出す前に、ちゃんと小型機利用者の気持ちをくんで、ちょっとだけ利用者の立場になって気を利かせて、秋田のCAB情報官のように仕事をしてほしいものだと思った。

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