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5月3日は、大利根−韮崎、韮崎−双葉、と飛んだ。この季節、韮崎をベースに山岳ソアリングを行うアクシオン・グループの練習状況の撮影。LS8×3、ベンタス2×1の4機。

韮崎は、山梨・日本航空学園(双葉)の釜無川対岸にある同校が管理するグラスRWY。

この日は、曳航機がトラブっていたため、またサーマル条件がなかなか美味くなかったため、発航は午後になってからとなった。逆転層がかなり高い。

G109Bはいち早く離陸し、北東方向の山に入る。北東−南西の谷筋、それが行き着くところ荒川ダム(御岳昇仙峡)上空3,500ftあたりで2,000RPMにパワーを落とす。低速ならば水平飛行が維持できる速度。これで尾根伝いに上がっていく。

たとえ水平飛行を維持するだけのパワー・セットにせよ、エンジンがあるという余裕。それは、ヤバ、となったら、機首を谷筋に向けると同時に、スロットルをグッとプッシュするだけで、逃げられる、ということだ。すなわち、攻めるときは思いっきり尾根に接近して、微細なアップドラフトを拾っていく練習をしているつもりになっているのだ。そして、実際のところ、エンジンの力で上がっているわけではない。



アクシオングループ


アクシオングループ


アクシオングループ
甲府盆地の北辺は、西から東へ、山頂部に岩柱が目立つ瑞牆山(みずがきやま)から、金峰山、国師ヶ岳、甲武信岳(こぶしがたけ)と続いている。標高2,595mの金峰から、南に突き出す尾根の上には、クラウドベースの高い積雲が、やはり南にのびている。尾根伝いに行くと、だから、そのあたりまで行けば、上昇率もかなり向上するはずだ。期待通りであった。

金峰上空11,000ftへ上昇し、各機のグライダーが集合するのを待つ。曳航機から離脱したグライダーは、その逆転層のホコロビを探して、それを突き抜けて上がってくるため、やや時間がかかった。ずっと2,000RPM以下で1時間ほど上空待機をすると、4機が揃った。撮影機はガグルに入ったり外側に出たりして様子を見る。雲底近く、時にインクラウドし、他機の機影が薄ボンヤリしてしまう。山ゆえに、コンバージェンスを伴うのか、雲底に段差がある。

4機は一団となって、金峰山山頂をなめて八ヶ岳を目指す。10,000ftを割らないハイバンドのクルーズ。どうやらLS8-18の丸ちゃんは、一人だけ翼が長く、しかも上がってくる前に水を捨てたらしい。軽快に、いつも高くにいる。他の3機は水を積んでいる。なにせ、彼らのフライトの主眼は、競技で勝つための練習なのだ。

そもそもグライダーの編隊飛行は、やたらと難しい。機体性能の差、技量の差、僚機となって長機に合わせようとすると、それだけで高度差を作ってしまったり、じわりじわりと置いてきぼりを喰らったりする。そんなとき、カタログ上の滑空比など、全く無意味に思えることもあるのだ。

八ヶ岳に至って、LS8/1Mがやや後落気味だ。
長機KZ/Mac市川は、その先の局面(前方の雲など)に対するインテンションを語り、写されるシーンをイメージし、隊形に指示を出し、遅れ気味の1Mの様子を尋ね、常時喋っている。自分の機体を飛ばすことにかける労力は、きっと注ぐ精神的エネルギーの5%にも満たないに違いない。
動力機の編隊長ですら、3機を引き連れてとなれば、精神的に相当疲労するものだが、グライダーは当然のことながら、自分の機体を飛ばし続ける努力をも、せねばならない。プロだなぁ、と思う。

八ヶ岳で各機旋回し、高度を回復させる。お互いの上昇率を時折コールしている。オッいつの間に5機に?と思いきや、霧ヶ峰から上がったデュオディスカスがそこにいた。蓼科に続く尾根の西側を行く。高度は10,000ftを切ることはない。いいシーンだが、写真的には逆光だ。

霧ヶ峰の上空には高く大きな積雲。そこへ吸い寄せられていく。霧ヶ峰から南下すれば、その時は順光になる。そうなれば、連なる八ヶ岳の稜線も画面に取り込めるだろう。だが、1Mがかなり後落し、撮影機の視野からも消えたのだ。世界選手権を前にした練習だから、ぎりぎりまで水を保持し続けようというのだろう。残る3機は、それでも前進。リーダーKZ/Macは時折「1M、状況!」と位置・上昇率を報告させ、視野にないものの、全機の状況を把握する。

最悪のケースとなっても、彼らならこの地点から、眼下の霧ヶ峰ではなく、極めて浅いパスで韮崎に戻ることができよう。そこで、簡単にいえば置き去りにしたのだ。だがそれは、本隊の霧ヶ峰からの帰路には合流できるように、自助努力で高度を回復させておくように、ということなのだ。こうしたことに耐えられない者は、このチームと一緒には飛べない。かなりハイグレードな技量が要求されている。
とはいえリーダーは、視認できない機体を含めて、4人分を一人で飛んでいるに等しい。見えない意識の糸は、決して切れることなく繋がっている。

Macは指示するボイスを矢継ぎ早に送っているが、同時にこの日の残り時間を計算している。日没までの2時間に満たない時間で、何が可能か。

霧ヶ峰から南下する帰路、八ヶ岳中央部硫黄岳あたりで1Mをリジョインさせ、南アルプスへ向かった。大きな谷を渡る。ここでは再び4機編隊。

甲斐駒ヶ岳にとりついたときには、5時を回っていた。フライトプランでは、もう着陸予定時刻だったから、撮影機は盆地側に出て、東京Info甲府サイトに5機分のプラン延長をお願いした。着陸予定時刻は日没の10分前にした。

山頂上空でガグルを組む4機のところへ戻ると、リーダーMacは、これからさらに北岳へ行く意欲を見せていた。南アルプスの西側をなめていくのだ。きっと単機ならば向かっただろう。僚機は、だが、安全サイドに留まった。
「OK、じゃあ、富士山で撮ろう」

4機は、鳳凰山、高谷山、櫛形山と高速で南下した。視程は良くないが、孤高の富士山が正面にある。4機は隊形を整えた。日没まで1時間と残っていない。赤い陽光が白い機体を染める。撮影機は各機のヘディングを頃合いのいい角度に整え、富士山がきっちり背景に入るようにした。

どこまで富士山に接近していくのだろう。着陸地からはどんどん遠ざかっている。富士の外輪山までは行けると言うが、日没も近い。撮影条件もある。頃合いを見て終了宣言をしなければならない。
「OK、十分撮れた。撮影終了、ブレークするよ」
そう言って右にバンクした。

とても激しい撮影フライトだった。右席ユカちゃんを見ると、「あ・・・あ・・・、だめかも」とかつぶやいて、切れそうになっている。被写体がいかに名手揃いといえども、挙動の違うグライダーと、3時間もの長時間にわたり、タイトな編隊を組んでいたのだ。クルーズでは接近し、ガグルでは大きなバンクに緩急の差も激しかった。そして実際に撮影は、50mmレンズが主体だった。被写体はとても近かったのだ。その集積から一気に虚脱状態になったようだ。

頭上でシルエットになったLS8が水バラストを放出していた。G109Bはパワーを抜かず、双葉の航空学園滑走路を目指し、高速で降下していった。

興味深い写真がいくつも撮れたと思う。しかし、このフライトの全貌を写真だけで語ることは、なかなか難しそうに思えた。ハイエンドのトレーニング状況は、たぶん、通常のグライダーをやっている人にさえ想像できないほどに、中身が濃かったからである。どうやって伝えるか、そればかり考えることになった。

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