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FLIGHT LIFE
FLIGHT LIFE 4

1人、興味を持った学生がいる。
大学航空部の部員なのに、自分では飛ばないのだ。かわりに写真を撮っている。航空部のオフィシャル・フォトグラファーらしい。
その存在に、ちょっと興味を持った。そういうありかたもありか、と不思議に心強く思ったし、何かひとつ新たな可能性があってもいいと思った。グライダー写真を撮っているのは、アマチュアを含めても何人もいない。ひょっとして、鍛えれば後継者になるか? やたらと修練と経済的我慢がいるが。少なくとも、いろんな糸口は教えてやりたい。
その彼からメールが来た。

本日は私的に相談したいことがありましてメールいたしました。
全国大会の前に購入したD70sも手に馴染み、扱いも板に付いてきました。それに伴い、グライダーを含め飛行機を撮影する際、ボディと一緒に購入した TAMRON 18mm-200mm のレンズも、良い絵なのに望遠側一杯でも一歩届かないなど多々不満が出てくるようになりました。

そこで現在、500mmをカバーする望遠レンズの購入を検討中です。しかしながら、このクラスで価格的に手の届くのは SIGMA APO 170-500mm F5-6.3 だけですので、これを候補にしております。
また、屋外(特に妻沼や木曽川といった滑空場)では、デジタル一眼のレンズ交換は恐ろしくて出来ません
(撮像部に簡単にゴミ・ホコリが付着して画像をダメにする)ので、レンズと共にD80も一緒に導入しようかと考えております。
まだまだ資金も貯めなければなりませんので、かなり先の話にはなりますが、一度瀬尾さんのアドバイスを頂きたくメールさせていただきました。
お時間に余裕のある時で結構ですので、よろしくお願い致します。
残暑まだ厳しい中ですがお体にお気をつけてお過ごし下さい。

問い合わせをもらったので、ご本人に電話し、こんな話をした。

500mmがいるか? デジタルはフォーマットが小さくなったので、500mmとは35mmフィルムで750mmになる。扱えるか?
つい10年ほど前まで、フィルム一眼レフで500mmを使う人はそれほど多くはなかった。使って400mm。ニコンには400mm/F5.6という、やや暗い、むろんオートフォーカスではない、しかし細くて軽くて非常に扱いやすいレンズもあり、みんな長くても、このクラスを使っていた。
実効400mmを今のデジタルでいえば、300mmでお釣りがくる。このクラスで確実に撮る練習を積んだ方がよくはないか?
もし300mmでよければ、ニコンの現行モデルのひとつ前のヤツが仕事場で遊んでいる。こちらで緊急に必要になった時には、すぐ送りかえしてくれるということを約束してくれるのなら、当分の間、貸してあげる。
むしろ、カメラ1台では、撮影はなかなか自由にならない。使える資金に制約があるなら、レンズではなく、300mmを付けっぱなしにしておける2台目を買った方が、効率がよくないか?

そして、500mmの作例写真をメールした。田圃の中で撮った、翼上面に雲を作るF-15の写真だ。

返事が来た。

大変参考になるお言葉で感謝しております。確かに今使っているデジタル一眼で、500mmは必要ないかも知れません。と言うよりも、よく考えてみれば35mm換算で 750mmになりますから、むしろ扱いきれないのではないかという予感もします。

メールを頂いてから、自分でいろいろと調べてみました。中古であれば、Nikkor AF 300mm F4が手に入る範囲であるようです。インターネット上の情報でも、良いレンズだという意見が多かったです。ただ、今まで望遠の単焦点を使ったことがなかったので、購入の検討をする際にも候補に挙げることがありませんでした。

ニコンの300mmを使わせて頂けるということですが、本当によろしいのでしょうか? 願ってもいないお話ですので大変嬉しく思います。次に木曽川で撮影を行なうのはおそらく関関同立戦か東海関西大会の頃になると思います(新人戦は平日という話ですので、夜間に差し入れを持っていく程度になると思います)。もし瀬尾さんも撮影にいらっしゃるようでしたら、その時にお会いできれば嬉しく思います。

ボクは彼にレンズ本体を送るとともに、もし興味あれば浜松や岐阜の航空自衛隊の航空祭にも、来れるのであれば一緒に撮るか、と声をかけた。
ただ飛行機写真を撮る、というのと、「目的」をもってそれを撮るというのは、じつはアプローチも出来上がりも、全く異なる。並のアマチュアと、プロやハイエンドのアマチュアとの境がそこにある。方向性を持った意識が、写真の(文章にしても、むろんそうだ)出来に大きな差を作る。
「目的」とは対象、見せる相手、すなわち「誰のために」、ということだ。
完璧に趣味の内にいれば、そんなこと考えもしない。しかし、「投稿写真で採用されたい」「誌面に掲載されて原稿料を稼ぎたい」となると、何か上を行く結果を出さねばならない。考えることはいっぱいある。

じつは、「目的」とか「誰のために」といったことはフライト自体にもいえることだ。自家用と事業用の違い、檻の中で飛ぶグライダーと、「ひとつの空」を飛ぶクロスカントリー機(動力の有無を問わず)との違い。
そうしたアプローチが、飛ぶことなく写真でできるなら、罪はないし、実験してみるのも面白かろう。

写真の場合は、その第一歩は、どこに立つか、どこで撮るか、ということだ。
ボクは彼に「浜松の航空祭は、ここで撮っているからね」と基地の略図を拡大コピーして、いる予定の場所に印を付け、送った。
しばらくして電話したら「会場で撮らないんですか?」という。
「あったしめぇだろうが、どこにいたらどんな絵になるか、先読みせいや。光の具合、機動飛行する機体の飛行パターン、撮れるであろう結果を想定しないで、一体何を撮るのかね」
「はぁ」

浜松航空祭の日、彼もその近くにやってきた。
そこには、ボクの飛行機写真の先輩といえる人たちが何人もいた。20年30年前の航空雑誌の写真を飾ってきたような人たちだ。さらには、ボクより若いが、実際にF-15に乗っていたような写真家もいる。その何人かに紹介した。
○○大学体育会航空部の、という本人の自己紹介は、奇妙に具合のいいトーンをもっている。
「いいか、もし本格派を目指すなら、いつの日か君も、こうした場で仲間だと思われるようになってほしいと思う。まず、こうした場に何度も来て、あ〜、この顔、また見た気がする、くらいのところから、顔を覚えてもらうとともに、同時並行で『あの写真、君が撮ったの!』と、撮った写真で君自身のプレゼンスを示さないといけない。すなわち結果を出す、ということだ。違うか? まぁ頑張ってくれ」

グライダーでも似たようなことが言えると思う。
日曜日、滑空場に誰でも戻れるような空域でプワプワ浮いて遊んでいてそれで満足、というのと、少しでも遠くに出ようとするのと、心構えが同じわけはない。
しかし、能力以上のことをすれば、飛行の場合は写真と違う。物理的に危ない局面に簡単に遭遇する。
それを回避するには、情報は豊かでないといけないし、技量評価は絶対的にシビアでないといけない。その双方が反映される場の雰囲気が非常に大切だと思う。酸いも甘いも分かっているリーダーが、若者たちの周辺にもっともっといなければいけない。

彼にはもうひとつ、ちょっと理解が難しいとは思ったが、ボクが大切だと思うことを言った。

いいか、写真主体のカレンダーを作っているからといって、写真集を出しているからといって、ソヤツを簡単にプロだと思うな。その程度だと、世間に偽物はいっぱいいるからね。とりわけ写真は、シャッターを押せば誰にでも写せる。お国の免許も必要ない。だから幻惑されやすい。
まずは、たくさん写真を見ることさ。そうすると、そのうち、クレジット(撮影者名)を見なくとも、誰が撮った写真か分かるくらいになる。
1コマでは無理でも、10コマ見れば、分かるくらいにはなる。逆にプロは、クレジットなしでも誰が撮ったか分かるくらいの写真を出し続けないといけない。
簡単にいえば、個性かもしれない。しかし、単なる個性にとどまらないものもある。例えば、その1コマの写真が生まれた背景。ちょっと業界風にいえば、誰がその「場」を作ったか、ということ。

「場」とは、作品が世に出て行く過程を、誰がいかに設定したか、ということだよ。あの人がこんな努力をして、こうやって働きかけたから、この作品は実現できたんだ、なるほどな、っていえるもの。例えば戦闘機の空撮なんて、その典型だよね。関係者全員に納得してもらうまでが全仕事量の8割9割を占めるわけ。その上、もの凄い責任がある。
いいか、本人の独創はもちろんだが、多くの協力者がいないと写真は撮れない。『あなたのためなら』と言ってくれる人が周囲にいっぱいいないと何も実現しないのさ。可愛がられないといけない。だけど、事によっては大勢に迎合も出来ない。プロデューサー的能力は最後までついてまわるわけよ。そして、類書・類似物のない時に、独創的にそれを作らないといけない。そうした良質のサーキットの中にいないと、プロになりきれないよ。それが望みかどうかは知らないけどね。


ちかく彼の写真にも登場してもらおう。その前に、今回のお題は、次の2点。

FL07

FL8

この写真の撮影者は、何を伝えたくてこの時点でシャッターを切ったのか、という気持ちを汲んで、400字程度の文章を書いて、下のメールアドレス宛に送って下さい。
airworks@mua.biglobe.ne.jp
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