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FLIGHT LIFE
FLIGHT LIFE 2

10月20日大野滑空場に行った。ダイニーマ索にかかわる最後の1コマ、すなわち好天の深い青空に突っ立つ、蛍光黄のいかにも軽いというケーブルの実運用の写真である。これが撮れないと一連の取材は完結しないのである。
すでに、ウィンチ改修時と索装填時の2度もこの取材で大野を訪れている。3往復となると明らかにコストオーバーだが、翌日には浜松の基地祭もあるからと自分を納得させ、出かけたのだった。
到着するなり、ウィンチの脇に陣取り、索の撮影を行う。500mm(実効750mm)といった超望遠レンズで縦位置画面の上半分に機影が入るくらいのアップを狙う。400mといった上空の細い索を写し込まねばならない。 可能なら、タルミなくそれを捉えたい。

結果は予想とは異なったが、それなりに使える絵が得られた。満足すべきだろう。事はそれだけではない。現場訪問には、必ず予期しない展開がある。
ウィンチ助手の大学3年生が質問してきた。
「TPって何部売れてますか?」
みんなが聞きたがる質問だ。
しかし、「知ってどうする? 次号に広告でもくれるのかね。広告料は安くはないけど」
しかし、語調には下世話な興味にとどまらない何かがある。
「じつは、グライダーの本を作りたいんです。出版したいんです。企画を審査して採用されたら出版してくれる企画があって、それに応募もしてるんですが、なかなか難しいです。どうしたら実現可能か、それを知りたくてお尋ねしたんです。明日にでも応募した企画書をメールしますから、ぜひ読んで下さい」
奇特な若者がいることに驚いた。
「で、君のグライダー経験は?」
「まだ、ソロにも出ていません」
何が書けるんだろう、その経験で、というのが第一印象だった。

たまたまそこに、滑空協会常務理事の吉田正克さんと、学連事務局長の内藤康男さんがダイニーマ・ウィンチの見学に来られた。隣の木曽川滑空場では学連の新人戦が行われており、その表彰式がある日であったから、立ち寄られたのだろう。
しばらくオペレーションを見ておられた内藤さんが「『滑空への招待』の学生版は作れませんか?」と言われた。それは、ウィンチ助手君との会話とは全く関係ないところで出てきた話だった。

そんなことは、『滑空への招待』出版時から言っている。あれを出したとき、「これはウチらのグライダーとちゃう」という若い声が聞こえきて、その瞬間、思ったのだ。
編集者として、あれはグライダーのミニマムな世界標準を描いたつもりだ。そもそもあまりにもグライダー事故が頻発し、何か対応せねば滑空界がずぶずぶと奈落に落ちていく状況下で、あるべき姿を示す必要に迫られて、全国のすべての社会人クラブに応分のご負担をお願いして作ったものだ。
世界標準と日本の学生グライダーにギャップがあるなら、それを認め、ふまえ、なお前に行ける何かを示さねばならない。それには学生自身の声が非常に重要に思えた。簡単にいうなら、学生がグライダー仲間を増やすプロモーション・ツールを、必要に迫られ、自ら作る、ということだ。

数日して、グライダーの本を出版したいという彼から、かなり長文の「企画書」がやってきた。
「予備知識がなくても、気軽に楽しめる大学生のグライダー体験記。飛行機自体ではなく、フライトと操縦者、気象に主眼を置き、グライダーフライトの面白さ、感動を伝える本」というのが企画概要であった。

しかし、とても空回りしているような気がした。返事になるかどうか不安だったが、こんな感想を送った。

なかなかの力作の企画書をありがとう。
真剣に書籍編集者になりたい気持ちは伝わるような気がします。

ただ、滑空書籍として限ってみればどうか。
可視範囲の狭さ、短かさから、難しいな、と言わざるを得ません。
語り口はどこまでも容易であっても、芯をついている印象が不可欠です。
これが飛ぶことの本質、というものを、小難しく講釈することなく、しかし嘘偽りなく語れるかどうか。
これがないと、部誌の域を出ません。
コイツ、分かっているなぁ、という共感も生まれません。

自らの経験で書くには年月がかかります。
今回はそれは問いません。
しかし、話を聞くことや、この分野を扱う本を読むことくらいは出来るでしょう。
では、誰に本当に面白い話を聞いたのか。
では、どれだけ滑空本をサーチしたのか。
類書がないと言いつつも、ボクが作った本や記事が『滑空への招待』以外に含まれていなかったのは、非常に残念でした。

本当に面白いグライダーは、ベーシックトレーニングの何歩か先にあります。きっと学生全国大会のさらに先です。
本格的なクロスカントリーの世界にはまると、これは人生観の発露以外の何者でもない、という感慨があります。そこを予感させる何かが、ほんの少しであっても、反映されていてほしい。
また、ベーシックトレーニング時代に優秀だった者と、グライダー人生のピークで上に行くヤツは、往々にして同一ではないと思います。誰も正比例のグラフのようには上達しないからです。
そこが人間模様としても面白い。

もし、こうした上級者の話は対象外だとするなら、少なくとも君と同じレベルの人たちの話題を、もっともっと広く全国的に集め、その結果として広く共感を得るという努力も必要でしょう。
ともかく可視範囲を広げる工夫をしてみて下さい。

物事のパースペクティブ。
物事には、単なる遠近感を越えて、それが置かれた距離、方位、重さ、大きさ、というものがあると思います。
これはとてもパイロット的な把握の仕方だとボク自身は思いますが、それを、いかにプロポーショナルにとらえるか。
これが、航空物にかかわらず、物を書いたり伝えたり、あるいは本が成功するかしないかの鍵だと思います。

自戒を込めて言いますが、表層的な知識観念で航空本を、しかも飛ぶことに関する本を作ることは、問題が生まれるでしょう。
飛ぶことは、遊びであって遊びでないからです。しかし、遊ばないと強くならない。
禅問答のように、難しいですね。
そうした世界で、君と話が出来る日を願っています。

そう返事して、『FLIGHT LIFE』を考え、編集長日記に掲載したのだった。

さて、第2回目の「お題写真」は次の3点。11/08、たまたま各務原に所要があって出かけたのだが、これは関関同立戦の行われている木曽川滑空場での撮影。
どんな説明をつけるか、考えて下さい。応募をお待ちしています。

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