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滑空機連続事故のさなか、だったと思いますが、7月末には、編集部にも重大事件が発生しました。

今まで好意にすがって無料でお願いしていた在庫保管の倉庫が、その会社のリストラ、業務改革の一環として、無くなるというのです。ついては、売れ残りのTPや『図鑑』など、一切を引き取るか、廃棄するか、あるいは新たに倉庫を借りるか、決断をするように、とのことでした。

「いい本だし、一生懸命さがあるし、いつかはメジャーになってほしいなぁ」といってくれた甘い同士意識に甘えて、比較的強気に刷り部数など決めてきたのですが、その前提があっけなく崩れたのでした。

結論を出さねばなりません。
世の大勢にとっては紙くずでも、私にとっては、口幅ったいですけど思いの隠った財産です。新たに倉庫を借りようとしました。しかし、1パレット1泊100円なんだそうです。10数パレットもあります。「年に50万円は用意してもらわないと・・・・」ということでした。

TPのバックナンバーは、これから年間何部出て行くのだろう? 日々ろくに棚卸しもできない境遇ですが、とても間尺に合わないのは明らかでした。

全冊廃棄か〜?
「TPのプロモーションを兼ねて、全国の大学航空部や図書館に寄贈したらどうだ?」
当然の事ながら、そんな話も出ました。

しかし、そこでブレーキがかかったのは、決して安価ではない小誌を、しかも宅配便料金を払ってまで、毎年待ち望むように買って下さる常連読者の気持ちでした。とてもまともではない形態につきあって下さる常連読者に対し、倉庫が無くなるからといって、どこかに寄贈するのでは、いかにも不公平ではないか。一義的に支えて下さる読者の皆さんを裏切ることはできない。廃棄するのは誰よりも苦しいけれども、そのネガティブ要因をテコに、新たな出発を図るしかないな、これを刷新の機会にしよう、と結論づけたのでした。

廃棄される日、倉庫を見に行きました。

もうどの出版物も完全に物理的なモノでしかなく、フォークリフトが動き回って、あっけなく作業は終わりました。そのあっけなさが、もとより大きい寂寥感を倍加させてくれました。その次に、恐れおののく事態に気が付きました。それは、これからのことです。計画していたTPをはじめとする何冊もの出版は、これからも計画通りすすめられるのか、ということでした。

特に、『クロスカントリー・ソアリング』日本語版のことが気がかりでした。

というのも、ベーシック・トレーニングを扱う『風を聴け』が初版発行92年で、96年にソフトカバー化された2刷が出ていますが、合わせて(よく知りませんが)例えば8,000部出たとしても、なんと13年かけての販売です。年平均600数十冊では、いかに保管場所が大切か、分かろうというものです。

まして、アドバンスの教科書となれば、その域に達する人の数が圧倒的に少なくなるのは目に見えています。クロスカントリーのステージに至る人は、ベーシックの1/4あるかどうか。単純計算だと、13年間倉庫に保管して、ゆっくりゆっくり販売して、年平均150冊内外になるわけです。



パレット1枚、年に3万数千円にせよ、1冊に込められた保管料は、年に200数十円になるんですね。13年経つと、その1冊の占める保管コストは3,000円を超えてしまうんです。定価の半分以上がこれでは、このスケールの出版は、どう考えても無理なんですね。

保管してくれる倉庫なしで、こんな出版が可能なのだろうか。それも無理だなぁ、と自分に呆れました。

唯一可能性があるとすれば、ご購入いただく読者の、素早い反応にすがることしかないんです。出たら、間髪を入れず送らせる。

ところが、これも現状では難しい。洋書、DVDなど輸入物に顕著ですが、在庫が切れて忘れた頃に、五月雨て注文をいただくことがとても多いんです。ところがバックオーダーは、いつまで待っても仕入れに見合う数には達しない。まとまった数にならないと、「卸値」にはしてくれませんから、こうしたとき、とても苦しいんです。

『クロスカントリー・ソアリング』でも『TP』でも、出版を事前からアナウンスして、刷ったと同時に印刷所からデリバリーする。在庫を保管はしない。言い方は悪いけれども、早い者勝ちの人だけを相手にして、なくなったら、申し訳ないと、ひたすら頭を下げる。それしか生き延びようがないなぁ、と思ったのでした。

グライダー・スポーツ振興小冊子『滑空への招待』は、そういう販売が可能かどうか、確かめさせてもらうひとつの実験でもありました。そのために、全国の社会人団体にご協賛をつのり、一般販売についても、刷り部数決定前なら100部単位の場合は定価の半額にする。そうして集まったご予約の1.3倍だけ作る。

そうなると、たぶん新人勧誘作戦が行われる3月4月を過ぎれば、あるいは翌年になれば、足らないと言われる団体が出てくることもあるかと思いますが、増刷に見合う予約部数がないかぎり、諦めて頂く。作る者として不本意ではあるけれども、それしか身の丈にあった出版はないのだろうなぁ、と決めたのでした。

まともな出版ビジネスを思い描かれては、この小さな世界ではたちゆきません。言い訳がましくて恥ずかしいんですが、持続的に作業を続けるには、作ったらすぐ流す、ということ以外に他に思い浮かぶ方策がありません。できるかぎり滑空関係の出版を続けたいと思っていますので、ボヤキばかりですが、ご理解とご容赦をお願いする次第です。
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