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(3)

飛騨では、もうひとつの事件があった。29日に来たときには元気だったSF-28が、ドン着して脚まわりを壊したというのだ。
「やっちゃったの? 稼ぎ時に、ダメじゃん」
愛すべき中京人のオーナーに不躾に言うと、「オレじゃない、オレじゃない、」と手を振っている。大したことはないが、そのまま飛ばすのは不安だという。
「まぁ、誰でもいいけどさ、なんだかみんな、ピシっとしないねぇ。何があったか知らないけど、RWY28の直前の谷は、風弱くとも、いつでも風が乱れて巻いているじゃん。下り坂滑走路であっても、10km/h+の増速は当然だし、それを当たり前に覚悟して来ないと、後付の対処じゃぁ、やっちゃうよね。

またね、全く因果関係はない話だと思うが、飛騨のフライトサービスも、イニシャル・コンタクトでアクティブRWYは言ってこないは、風は言ってこないは、ましてQNHは言わないは、在空機の数とかも言わない。まるでノー・サービスだもんなぁ。5nmとかからインバウンドする機体に対して、開口一番『これから1機、曳航します』は、ねぇだろうよ。ピストの眼前の現象ばかりにとらわれて、本来の仕事が出来ちゃいない。誰も彼もが、ひとつの物事にガチガチにとらわれるから、ミスるような気がするなぁ。行儀や躾っちゃあオレが言うのも変だけど、それが出来てねぇから、仕切に従おうとか、この人についていこうとか思えなくなる。全体の雰囲気がひとつにならずに、何かやらかすのと違う?」

飛べないはずだった飛騨では、中航連の重鎮が千光寺に挨拶に行き、この日の長時間の運航休止をなんとか圧縮してもらい、飛び始めていた。
風の条件も、午前中に予感したとおり、午後深まってベターなものになっていた。

着陸後、1時間も経たず、といっても16:00を過ぎて再離陸した。
飛行場の10kmほど東に機影を見つけ、寄っていく。Twin U Acro だった。懐かしい機体、2441。関宿にボクらがクラブを作ったときの最初の機体だ。現在はウェーブ・ソアリングの所属機。
リッジを使ってなるべく早いクライムを心がけ、6,000ftを超えたところでジョインナプした。まだ乗鞍へは大きな距離があり、それゆえに山塊の全貌が背景に写りそうだ。「2441、09AW、HDGを南西に向けてくれますか」
やや下に占位し、機体を見あげる形をとり、画面下の空間に乗鞍岳が入るよう、時にはこちらでダイブブレーキを操作して接近した。

スタックダウンした位置につくと、いつもはジャマになる左主翼が画面から消える。背景の乗鞍が画面のいい位置に入るよう、微妙に位置関係を調整していく。すると、ほぼラインアブレスト、真横のポジションとなった。
「OK、いいよ、真っ直ぐ飛んで」
背景の乗鞍岳が画面の中で左側にゆっくり移動していくので、それに合わせてこちらも少しずつ前に出て行く。かなり前に出て、こちらがテーク・リードするほどのポジションまで動いた。斜め前からの撮影は久しぶりだ。割に新鮮。
「じゃぁ山頂部に行ってみるか。1機2機いたよね」
8,000ftほどに上がり、山頂付近を遊弋する機体を発見。TTだという。誰が乗っているのだろう? 疑問に思いながらも、コンタクト。
「乗鞍の北から南下する格好で、真っ直ぐ飛んでくれれば空撮しますよ」
「了解」
それにしても、誰だ?
主峰の北4kmの大丹生岳付近でジョインナップ。南下のHDG。
が、あっけにとられた。TTは山頂部の斜面に沿い、くねくねと斜面をなめ、機体の腹は見せるは背は見せるは、「どうだ、オレの山岳フライトは!」と言いたげにカッ飛んでいく。
「何考えてんだ、あの野郎は! 危ねぇたらないな。了解って言ったら、真っ直ぐだぜ、真っ直ぐの概念がないのかね。放っておこう」
ズームの望遠側最大にしても豆粒にしかならない機影をバカバカしく眺めていた。
「じゃぁ、2438はどうだ? DG-600はきちっと飛んでくれるはずだ。焼岳か安房岳か、北の方にいたよな。呼び寄せよう」
口直しの再南下。松本盆地の南部を越えてその向こう側に、10,000ftというレベルを示すような底の平らな肉薄の雲がある。コロナ観測所、宇宙線観測所を越え、乗鞍主峰の火口原が画面に入ってくる。朝日岳、剣ヶ峰、大日岳(奥の院)、屏風岳、薬師岳、雪山岳、水分(みまくり)岳、蚕玉(こだま)岳、という八葉の峰で囲まれたカルデラだ。今は雪原でしかないが、夏はこの窪地に権現池が姿を現す。この山頂部は、太陽と水にかかわる宗教性の濃い場所である。

何度か乗鞍山頂部では撮影しているが、このカルデラの中にぴたりと機影が収まった、という絵は撮れていなかった。2438が進んでいくのに合わせて、少し高度をアジャストすると、ドンピシャとその真ん中に入ってくれたのだった。

やがて南斜面が画面に入ってくる。ここに至ると高度を維持できる要素がなくなるので、そろそろ撮影の継続はできない。で、DG-600が旋回するのは、山から遠ざかる方向であり、撮影機がいる方向である。ボクは何度かここで撮っているから、タイミングからいってもう回るだろうという読みや、気持ち的余裕はあった。そして、予令なく右旋回が始まった。初めての翼クンはドキッとしたらしい。
本来なら「Right turn, ready, now.」という。readyで一呼吸おき念を押して、nowで開始する。むろん「間もなく回りますから、ちょっとどいて下さい」でもいい。予令がなければ、BlueI Impulseでもうまくいかない、 きっと。

「じゃぁ、もう1回やろう。北上してから、再度ジョインナップするね。次は、山頂部からやや離れて、距離をとって飛んで下さい」
飛騨に降りたら、TTがいた。
「なんだ、アンタか。言っておくがね、真っ直ぐったら、真っ直ぐなんだぜ。了解、って言ったら、勝手に踊らないでほしい。危ないだろうが」
「・・・・分かりました、明日は真っ直ぐ飛びますから」
いや、結構だ。明日は、この機体に限っては、ない。誰が飛んでいるのか知っていれば、むろん今日も、まず呼びかけることはなかっただろう。
「ところで、アンタ、なんでここにいるの? 貸した機体が墜ちたんだろ。但馬には駆けつけないのか?」
なんだかよく分からないが、不思議だ。

飛騨では、ウェーブ・ソアリングの格納庫前に係留させてもらった。そして、平湯温泉方面にだいぶ車で走って、村はずれ?にある旅館に行った。
広間で晩飯が始まる前に、画像をパソコンに移し、みんなで食事をしつつ撮った写真をスライドショーにして見てもらった。すぐ見られることはデジタル写真の最大の長所だろう。
今年の連休の撮影成果は、総じて好調に思えた。長野から上がる機体が撮れれば、かなり満足できるだろう。
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