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(2)

浅間の西に連なる山の上から、蓼科を目指す。
長野の人たちが南アルプスに遠征する場合に、まず最初に克服すべき谷渡りだ。テレインとの高度差は、水平飛行しているが次第に深まる。エンジンなしでここを渡ったことはないが、多分初体験なら、数百mを超える海に漂ったときのような、底なし感に似たものを感じるのだろう。いずれも特徴的な火山である、浅間−蓼科間で38km。間に雲があればいいが、欲しい真ん中辺にはない。

蓼科からは、横岳、茶臼山、天狗岳、硫黄岳、横岳、赤岳、阿弥陀岳、権現岳、編笠山など、八ヶ岳の主要な山々が連なっている。
山の名前は重要だ。被写体になる機体も、自機の位置を言う場合、目立つ山からの方位、距離、高度を言ってくることが多い。

LS8丸ちゃんAAとDG-300の利典クンSWは、既に蓼科まで到着していた。最初、撮られ慣れたAAを追っかけたが、利典クンSWは、山での撮影は初めて。彼がこの機体を使うに至った経緯に少し関与したこともあって、写欲がわく。性能差があって、チェースするSWはかなり下方にいたが、AAが状況把握を確実にしているので、何も心配は要らない。
「じゃぁ、南下してくれる?」

機体が高度を維持しやすいのは稜線の上だが、稜線の上を行かれると、山の向こう側の風景だけが背景になり、山が画面に入らない。
「ちょっと稜線を外して西側を飛んでくれない?」
「いいですよ」

八ヶ岳の最も八ヶ岳らしい赤岳の西まで来ると、彼らは南アルプスに渡る準備を始める。八ヶ岳の南端、権現岳から小淵沢をまたぎ、南アルプス北部の甲斐駒ヶ岳までが24km。高度低下を最小限に抑えて谷渡りをする。このときはAAにくっついていった。
使用していたカメラはD200、レンズは翼クンの18-70mmで、その焦点距離は24mm。銀塩フルサイズの場合に換算すると、36mmのワイド。そして、右後方から寄りに寄って、機影は画面一杯。遠く遙かな富士山と南アルプス北部の全貌を広く背景に取り込んだ。LS8の左右の主翼は、広角効果により、手前の右翼が向こうの左翼の2倍以上の長さに写っている。

「丸(ちゃん)はつきやすい」
学連同期のよしみもあって、翼クンがうなる。見事な占位を続ける翼クンも、なるほど丸ちゃんが推薦しただけのことはある。2機の間に、見えない神経が通いあっている。緊張も無ければ、独善もない、命ずることも、命ぜられることもない自然体の、薄明るいオーラのようなものが、この空間に漂い、機体と一緒に動いていく。
「飛ぶ者として、なかなか贅沢な時空間を実感するだろ。『飛行』という行為に、人の顔そのものといった表情がある。機体が優美なんじゃなくて、飛ぶという行為、飛行の性格といったものが優美なんだね。見える技術のうちは、棘のある緊張が表出して、なかなかこうはいかない。きっと、その先なんだな。理の世界ではなく、何やら不思議な世界を見ているような、情の世界なんだな。これが空撮の、編隊飛行の、おそらく他の人が想像も出来ない奥深い喜びなんだ。絵が撮れるということに加え、これがあるから、毎年連休のグライダー空撮は止められないんだよ。でもさ、いいかい、山を飛ぶベテランだからといって、誰もがこう飛べるとはかぎらないからね。この先、注意してね」

機体のスパン、性能差から、利典クンは500mは後落して、高度差も大きくなっている。AAはダイブを開いて待機する。こちらもブレーク。次は再びSWにジョインしよう。甲斐駒の北側にある雨乞岳でSWの機影をとらえ、甲斐駒、北岳と辿っていく。
さらに、間ノ岳、塩見岳、荒川岳西稜、赤石岳、聖岳、上河内岳へと進めた。その間、入れ替わり立ち替わりAAとSWにつき、かなりのコマ数を撮っていった。
ずっと10,000ftを超える高空だし、酸素を得ながらといえども、長時間の集中は疲労をもたらす。ほぼ15:00になった。「明日もあることだし、一休みするか?」と飛騨に向かうことにした。
122.6MHzを聞きつつ行くと、中央アルプスの先の御岳にDG-500Mがいることが分かった。飛騨から上がった機体だ。結局10,000ft+を維持したまま御岳に行くことになった。山頂付近に逆光でキラキラ光る点のような機影が分かった。
だが、接近すると、DGは8,000ftくらいか、到着したときには御岳の北東斜面でかなり高度を落としていた。なぜ北東側に出てしまったのだろう。上がってくるのをしばらく旋回して待っていたが、ちょっと時間がかかりそうなので、これも「明日があるさ」と持ち越しにして、飛騨に降りた。着陸は15:16。2時間42分の飛行だった。
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