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北アルプス火山紀行

TP12の発送が一段落して、次の週末には北海道展開もあるし、機体は2ヶ月も寝たままだし、ちょっと飛んでおく必要があるだろうと、7月20日は北アルプスへ出かけた。
大陸の高気圧の張り出しがあり、甲信越は晴れらしい。しかし、太平洋側は梅雨が残っている。現地に行くまで、ちょっと苦労があるかもしれない。
しかし、最初の苦労は営巣対策だった。プロペラを手回しすると、スピンナーから卵が4個もこぼれ落ちた。機体の各所にスズメが巣作りしてくれたおかげで、その膨大な量の枯れ草などの除去に手間どり、といってもユカちゃんと金子さんが精力的に作業してくれたのだったが、出発は1028時と遅かった。遅い割には同乗者はない。
案の定、妻沼付近から、トップ7,000ftくらいかの雲が多く、この先、浅間で10,000ft近くほしいので、機体が単独で軽いことを頼りにパワーで高度を上げる。
1140頃に到着した浅間では9,000〜10,000ft。真上から火口を覗く。北アルプスへの往き道に浅間はあるから、いつも飽きもせず撮っている。噴煙が多ければ風景的に面白いし、薄ければ火口の様相がより明瞭に撮れるし、絶えず撮っていなければならない。今回は薄いが、中心的とおぼしき最奥の一段窪んだ火道は、視認はする機会あっても、写真的には残らない。悔しいが、だから機会あるごとに、なのだ。

この日の北アルプスは、まずは北の白馬から攻めることにする。
空撮火山写真コレクションで、風吹大池の画がずっと食い足らなかったからだ。浅間の撮影を終え、ダイレクトに風吹大池を目指す。北アルプスは高層に雲が被っていて、全体にシャドー気味で美味しい撮影条件とは言い難い。が、行けば必ずいいことがある。これを信じる以外ない。
更埴の上から長野FSを呼び、山岳撮影後ハイオクの給油が可能か尋ねた。プランでは到着地松本で4時間の飛行だが、撮影に粘ったりすれば、プランの変更に次ぐ変更になりがちだ。

風吹大池は7,000ftくらいがトップの湿った雲に囲まれていて、視認できるが、湖水の周囲に小さな凹地となって残っている爆裂火口群をそれらしく撮ろうとすると、高層の雲で光りにメリハリはないし、雲の穴の中に入って行くには、右席に専門の操縦者が必要な難しさがある。こんなところで脇見操縦でインクラウドしたら、そこに次の稜線があるわけだから、結果は火を見るより明らかだ。だから粘らない。雪が降るまでに何度も次の機会があるだろう。

白馬乗鞍岳〜白馬岳〜杓子岳〜白馬鑓ヶ岳と稜線近く上昇風を拾いつついき、唐松岳の北壁をなめて劔を目指した。
黒部川の下廊下を越えると、たいていは劔の風下となって、かなり激しい乱流に遭遇することが多い。北西風のローターやシアの激しいやつだが、この日は嘘のように静穏。山稜のどちらの側からも風が駆け上がるかのようで、ミクロのコンバージェンスといった感じだ。機体は非力でも、その気になればすぐ上がる。そして次第に高層の雲も薄くなってきた感じがする。
映画でも話題の劔。雪渓が多く残っていて、梅雨明けの季節感にあふれている。

次は立山。立山の最高部をなす富士ノ折立、大汝山、雄山そのものは火山ではないそうだが、室堂山(標高約2,670m)は活火山。
室堂が火山らしいのは分かるが、今回は火砕流が厚くたまって形成された台地、弥陀ヶ原をそれらしく撮りたい。

奥大日岳から南下して一瞬、室堂は撮ったが、すぐ大日岳への稜線に戻り、差し渡し13kmの、数段に分かれた傾斜の緩い平坦面として続く高原地帯、特に称名川の断崖絶壁として切り込まれた谷を手前に入れて、弥陀ヶ原を撮る工夫をする。
称名川の下刻作用はいつ見ても感動的に凄い。
肝心の称名滝は、その流頭までが雲の中。残念と言えば残念だが、下流側が雲の中というのは、これも風情の内だ。
そんな風に思えるほどに、ここもよく来ている。

いつしか高層の雲は消えている。風景が非常に明るくなったにもかかわらず、11,000ftという高度のせいもあるが、確かに寒気を伴う高気圧の真っ直中にいるようだ。乾いた涼しさが印象深い。風も弱い。そして抜群の視程だ。
7月の北アルプスで、風強く視程いい日は何度もあるが、稜線を駆け上がるベールのような雲と、ローターに脅かされることがあり、風弱くてこれほど見える日はなかったような気がする。

薬師のカールを撮り、雲の平へ向かう。
北アルプスはもう何回飛んでいるだろうか、今回は撮影条件に助けられているせいか、自分の空のような、慣れた感覚がひとしおである。特に富山・岐阜側はそうだ。
雲の平周辺では、鷲羽岳中腹にある鷲羽池が火口っぽく目立つし、よく撮っているのだが、溶岩台地である雲の平や祖父岳、樅沢岳はそれらしい画がない。空撮では、意識して撮らないと目立つものばかりになりがちなのだ。この辺り、一番目立つのは槍ヶ岳で、槍から続く西鎌尾根の延長上に樅沢岳もあるが、この尾根の高まりが樅沢、と特定していないと撮り忘れる。
鷲羽池の先に植生がない斜面がある。硫黄沢。これも目立つ。ここではしばしば突発的な蒸気噴出が目撃されていたという。
西鎌尾根伝いに槍ヶ岳へ行く。休日とあって尖った山頂部に人がいっぱいだ。尖った山頂が空に突き出した雰囲気がほしいが、そのためには山頂高度より下がらねばならない。すると、槍の周囲を旋回する際、尾根との距離が異様に近くなっしまう。500ftまでは寄れるエリアだが、登山者に苦情を言われても困るし、トリムをとって膝で操縦桿を操作している状況だから、接近はそこそこにしておく。

次には、穂高への稜線を飛び、北穂−前穂を周回する。明神岳をかすめて東側を北上すると、ここらはどいう訳か比較的風があり、下降風強く、稜線より低い高度に下がっていく。何度か例があるが、きっと、初めてそうした下降風に遭遇すると、同乗者は目を白く剥いて口から泡を吹き、膝を止めようもなく揺らすはずである。何事も慌ててはいけない。この日は穏やかな日なのだ。この程度の状況が涸沢などのカールを撮るのに都合良い。

北上すれば横尾尾根で、あるいは東鎌尾根で往き道を遮られてしまうが、槍−穂高の稜線の鞍部と自分の高度を見極め、稜線の西側へ出る工夫をする。

この間、60%パワー程度で70kt。上下する風が見定めやすい速度にして、風を拾う。その間合いから稜線に1機幅、20m寄るか離れるかで、パワーに頼らずとも上がっていく。位置どりは実にデリケートだし、こうしたことがモーターグライダーの必然だ。写真は撮れるし、飛んでる実感もあるし、面白い。
誰彼となく誘いたいが、乗物酔いなど見定めてからでないと問題が起こりそうではある。そして実際、この辺りの山の様相はいつ見ても奥深い。
いつもは早い時刻が多いが、初夏の真上からの太陽という光でも、その山容の奥深さゆえか、画にはかなりの陰影がある。これはありがたいし、余禄だし、新たな発見だ。

そして次には、北アルプスで最も火山らしい焼岳に向かう。
昨年の9月にも絶好の条件で焼岳を撮ったが、どういうわけかカメラのWB設定が間違った設定になって(機上で何か新たな設定をしたのが間違いの原因)いて、RAWだから直せはしたものの、一息満足度が十分でなく、リベンジしたかったのだ。

焼岳は、ほどよい距離をおいて見ると、きわめて火山らしい雰囲気だが、上からかぶって垂直気味に撮ると、奇妙に穏やかになってしまう。
変色した山肌、そこかしこに開く火口の裂け目、できるかぎり画の中に取り込みたいのだが、絶妙の距離感を得ようとすると膝での操作では難しい。何度か周回したが、深追いしないことにした。
離陸後3時間以上経過して、腹が減ったこともある。東南東約30kmにある松本空港に降りることにした。
松本到着は1351時。3時間23分の飛行で455コマの撮影をした。成果はかなり大きかった。


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