Welcome to AIRWORKS HP
HOME Turn Point 空遊録 編集長日記 Collections Contact
Back
CSとDuo編隊の日曜日

JMGCの忘年会から一夜明けた日曜日は、おそらくは今年最高の視程のある日になった。朝は穏やかだったが、大利根上空からも、房総半島の海岸線や冠雪の日光連山が見え、15kt+の吹き出しを覚悟した。

アステアCSの空撮のため板倉に行く。CS77やCS Jeansではない、1974年に初飛行した、最初のCS。日本で唯一の機種。当時、複座練習機にはプラスチック機は少なく、木製機や鋼管羽布張り機からの単座機転換を容易にするために、設計したエップラーは、翼厚19%もあるE603翼型を使った。
板倉で組まれるCSを見て、厚い翼型ばかりではなく、その余裕のあるコクピット・サイズに驚いた。ボディ・コンシャスな最新鋭機ばかり見ていると、これは逆に新鮮である。なんでもオーナーの1人は、かなりの長躯で新しい機体には物理的に入れないというのだ。

大きなコクピットを合理的流線型的にまとめるために、風防から機首先端へのラインがとても特徴的だ。空撮では、これを逃さぬよう捉えなければならない。

上昇気流は、雲のラインが出来ては消えるアップダウンの激しい日だった。3,000ftでホールドし、CSが上がってくるのを待つ。リリース直前に交信が輻輳したため、ジョインナップに距離を要し、500ftもロスするはめになったが、異様にクリアな視程の中での撮影は楽しい。
被写体機の右後方について寄る。撮影機パイロットは重ちゃん。相変わらず上手いねぇ。

さて、アステアCSの機首先端から風防にかけてのラインを生かすには、撮影機は少しスタックアップして旋回の内側につく必要がある。大きなバンクがとれれば、機首形状を撮りやすいが、バンクが15°を超えると異常接近の発生時にマージンがない。バンクが浅いと、後方からの撮影であるから、主翼が機首を隠してしまう。だからとスタックアップを強くすると、画面の中に地平線をなくしてしまうし、機首のサイドラインも失せていく。
50cm上へ、1m接近して、2m前へ、というように、占位の遊動範囲は極めて狭いのである。しかも、相手もこちらもレールの上を走っている訳ではない。上下動を伴う風の外因もある。

空撮は短時間で行う必要があった。だから、離陸前に大利根への帰路のフライトプランを出して、大きな旋回を1周するだけにし、撮影機は板倉に降りることなく帰ることにしたのである。帰るなり、次のミッションをすることにしていた。
この週末から大利根ベースとなるDuo DiscusがDDとYDの2機となったことから、午後にはDuo2機の編隊の空撮することを希望し、中澤さんにセットアップを頼んでいたのだ。

グライダーの編隊飛行は、編隊間でパワーのアジャストができなから、それ自体が非常に難しい。飛行中、相対高度に余裕が出てきた方に、無線で一瞬ダイブを使ってもらい高度をアジャストするなどの指示をし、隊形を揃えていかねばならない。まして旋回となれば、等速であれば外側の機体はみるみるバックオフしてしまうから、飛躍的に難しくなる。

さらに、撮影機と編隊2機の見通しラインの調整にも苦労する。機影のボリュームを大きくとらえようとすると、必然撮影機長機のエシュロンとなるが、被写体編隊との間合いが変われば、理想的には編隊僚機の位置を動かさねばならない。しかし、そうこうするうち、編隊自体に高度差が出来てきてしまう。
2機の編隊でもこうであるから、3機4機となれば、幾何級数的に撮影機会は少なくなり、画面の中に全機を入れておくだけで大変なことになる。

というように、グライダーの編隊を思い通り撮ることは大変難しい。しかしそこは多士済々プロっぽく面子の揃う大利根だ。とりわけ重ちゃん板倉から燃えている。
セットアップの予定時刻になった。その時浮いていたYD(堀田+寺田)に、サステイナーを使っても降りてこないように頑張ってもらい、会合点を若草大橋上空とし、DD(澤田+米田)を曳航して接近した。離脱後曳航機は撮影機となる。今回G109Bを使わないのは、前から撮れるチャンスを生かしたいからだ。

YDを基準にし、DDと撮影機が両外側から高度処理して速度を合わせ、迅速に右エシュロンを組み上げた。HDG筑波山。
こんな写真を昔テキサスで撮ったことがある。世界選手権優勝最有力候補だったフランス・チームの、この年登場したばかりのニンバス4の2機編隊。その偉容に感激したが、この絵を見れば大利根もフランス・チーム並みだ。
しかもこの絵には成田国際空港が写っている。編隊僚機DDの左翼端の先である。成田から上がったグライダーのイメージなんて、とても国際的だ。

この後、YDはエンジンを使って筑波山へ向かった。撮影機は次の曳航を待つ曳航機であるから、早々と飛行場に帰し、慌ただしくG109Bに乗り換え、平岡さんと一緒にYDを追った。強い北西風に、YDはそう先には行けまいと思ったが、再度ジョインナップした高度はクライムが大変な5,000ft。冬の冷気が、密度濃い空気の成因となるとともに、エンジン油温のリミットアウトを防いでくれて助かった。その高さを生かし、関東平野の広さを取り込んで、さらに撮影を続けたのだった。
この空にいるのは熟練者ばかりである。大人っぽい落ち着いた機体の動きが、その何よりの証拠だ。そしてそれに合う光のトーン。どれも撮る者にとって密やかな幸せが満ちている。撮った絵に、それが滲み出るように写ってほしいと願ったのであった。


TOP
TOP | about AIRWORKS | 通信販売について | Contact

Copyright Hiroshi Seo All Rights Reserved