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築城にF-2を撮りに行く

10/31、名古屋でF-2が墜ちて、搭乗者のことを非常に心配したが、もうひとつの懸念があった。築城の航空祭がどうなるか、である。事故原因が究明されるまでは、当然飛行停止の措置がとられるだろうからだ。
撮影続行中の2009年版航空自衛隊機カレンダーでは、F-2の気に入ったコマが薄いものだから、同機を保有する基地祭には行きたいと思っていた。単純な離着陸シーンであれば、申請書を提出して滑走路脇に入れてもらい撮ることが出来るが、戦闘機の戦闘機らしさは機動であって、これは基地祭(11/24土)かその予行日(築城では本番前日)、あるいは単発の練習日でしか撮れない。基地外で撮るとなると、アマプロ・オープンの場で掲載に足る1コマを得なければならないストレスがあるが、自分の力量を信じるしかない。

当初計画では、金曜日(祝)の総合予行に間に合うよう、木曜日にG109Bで名古屋経由北九州に飛ぶことにしていた。名古屋からの同乗者は、自家用免許をとったばかりにもかかわらず、大阪転勤を強いられ、モーターグライダーから遠ざけられた不遇のタブに声をかけた。
そして、基地祭本番後に福岡で泊り、日曜日朝には1泊のパックツアーで那覇に飛び、ここでも1コマだけ、撮れるであろうという見込みの飛行機写真を撮る予定にしていた。昨年那覇に行ったとき、時間的に手が回らなかった場所での撮影だ。RWY18だといいが。日照も風も、運に頼るしかないが、1泊2日1人23,000円でレンタカーつきなら、ダメモトでトライしてみたいと思ったのだ。パックツアーは最低2人でないと受け付けてくれないから、同業者Nikonちゃんを誘った。そして自家用機は北九州に置きぱなしだ。
F-2の事故は、こうしたことを全部セットアップして料金など振り込んだ翌日だった。

そうこうするうち、米空軍のF-15がACM(戦闘機動)中に空中分解した。これも飛行停止になったから、たとえ基地祭があっても、飛ぶのはブルーインパルスだけになりかねなかった。
F-2の事故は、尋常ならざる機首上げ機首下げという墜ち方が墜ち方だけに、コンピュータなどの異常信号が引き起こしたものに思えた。それゆえ原因究明は、むやみに時間と手間がかかるようにも思えた。築城行きはキャンセルが妥当だろう。

ピッチ・レート・ジャイロとロール・レート・ジャイロの配線が逆に接続されていたというF-2の事故原因が判明したのは、築城航空祭の1週間前だった。
定期整備の試験飛行前、これらの装置は必ずテストベンチでチェックされるだろうが、そこではOKでも、それを機体に戻す際、繋ぎ間違いが起きたのだろうか。
これは、F-2開発に至る基礎データを得るための実験機、T-2 CCVの公開飛行時の「あわやの事例」を思い起こさずにはいられない原因であった。あれは、プラスとマイナスを単純に間違えたプログラム・ミスであった。
どうして同種の、もしそう言えないならば、少なくとも同根とはいえそうな事故が起きるのか。徹底した切開が必要だろう。

ひとつの「飛行の哲学」として、ボクは「自分で扱うならば」単純な機体が好きだ。フライバイワイヤーも油圧もいらない。引込脚もいらなければ、フラップもいらない。エンジンだっていらないが、なければ仕事にならないから、とりあえず付いたG109Bに乗っている。遊びなら、だからグライダーがいい。
同じように、ヘリコプターについて思う。あれは、空中に上がる道具としては、特に仕事の道具としては、極めて有能である。操縦も、手足を脈絡なく動かす局面があるように、すこぶる面白い。しかし、と思う。浮く源、命の根元である翼が動くのである。それも単純な回転ではない。そして、可動するものは必ずや壊れる要因を内包している。個人として、それに耐えていける力量があればよい。そうした全体像を自分自身で仕切れるかと問い、できる他の人にはいいだろうが、自分にはそれはないだろう、と思うのである。だから仕事でしか乗らない。

話を築城に戻そう。 飛行再開1週間かそれに満たない日数で、機動飛行のデモはできるだろうか。ぶっつけ本番で、あの低空での高機動は難しいだろうし、練習日を何回設定できるのだろう。F-2が飛んだにせよ、機動に代わって、たとえ大編隊のフライバイ(航過飛行)が行われたとしても、それだけでは行く価値はないだろうなぁ、と思ったのであった。
基地祭の週の月曜日、地元の飛行機写真愛好家から電話があった。「これからF-2が4機上がります。AGG(対地射撃)のデモ慣熟みたいですよ」
ほう、回復は急ピッチだ。で、機動飛行は?

「タブよう、一度キャンセルした有給休暇を復活させるのは難しかろうねぇ、会社員だもんなぁ。というのも、状況は当初計画に戻りつつあるらしいからだ。北九州に飛んでいこうと思い始めている」
「ううう、やっぱり無理ですねぇ」
代わりの同行者候補は他にもいるが、単純に築城航空祭の往復に自家用機を使うのはつまらない。キャンセルした那覇ツアーの代わりに、+アルファのミッションが組めるだろうか。自家用機の目的地に直線的に行けることを活用し、毎日仕事をしたいのである。単一目的のためだけに出かけたら、時間もコストも見合わない。

九大・九工大のグライダー合宿が、行ったことのない熊本県白川河口の河川敷滑走路で行われている。ここに降りられれば、ひとつミッションが組める。が、熊本空港からレンタカーで来てくれと管理者はいう。そんな時間と無駄金は使いたくない。
では、防府の空自基地で行われている中国航空協会の運航を撮りに行くのはどうか。自衛隊だから入門許可が大変だが、しかし25日の日曜日はクラブの活動はないという。
では、阿蘇牧場の北九州グライダークラブはどうか。ここは社会人団体ながら合宿形態で活動されている。しかし、この日は参加希望者が運航できるほどには集まらなかったという。
では、岡山グライダークラブの所属機で、撮りたかったTaifun 17Eはどうか。耐空検査は終了したか? 残念ながら、月内は整備が続き飛べそうもないという。
日程的に想定できる西の方のグライダー関係は全滅であった。
築城単純往復ならば、自家用機以外の手段をとらねばならない。

とはいえ、西の方のグライダー関係の全滅が判明したのは水曜日夜であった。九州行きエアラインは、効率よい時間帯は3連休前とあってフルであった。状況に不満いっぱいでうめいたが、おおそうだ、まだSKYの羽田-神戸はフルフェア1万円だったと思い出した。で、大阪南港から瀬戸内海を夜間航海して未明の門司に渡るのはどうか。このところフェリーづいている。フェリーの2等寝台に我慢すれば、インターネット予約なら、2割引のビジネスホテル並料金で北九州に運んでくれるはずだ。
さすがにSKYも、3連休前日となると朝早い便しか予約できなかったが、航空写真家協会写真展に関し、ちょっと相談しなければならない同業者が大阪在住だ。到着から出港までの空いた時間は、ちょうど面談する時間によい。

こうしてセットアップした木曜日早朝、家を出ようとして携帯電話を仕事場に忘れてきたことが判明した。電池切れが頻繁に起こり、深夜に気づいて充電を始めたのが原因だ。翌朝では取りに行く時間的余裕がないから羽田に直行したら、昼前の便に空席が生まれていた。カウンターでそれに予約変更し、モノレールで浜松町へ1往復し、必需の道具を持って旅客機に乗った。

さて、大阪南港から乗船しようとしたら、携帯電話に「築城に来ますか?」という宮崎の飛行機写真マニアからの問い合わせがあった。「そのために今、船に乗ったばかりだぜ」というと、未明の0530に新門司港まで迎えに来てくれることになった。携帯様々だ。
乗船と同時に風呂に行き、寒い風が吹きすさぶデッキで明石海峡大橋を撮って、食堂が開くと同時に夕食にし、すぐ眠った。船内では、なんたって、やることがない。

夜明け前には、滑走路西エンドの北側にあるお墓にいた。ちょっとだけ高台になっており、築城飛行場の全体が見通せる。この場所は、昨年場内で撮りながら、機動する機体の動きを見ていて、長いレンズがあれば、中より外の方がよく撮れそうだと思えた場所なのだ。
そして天候は、すこぶる良い。全く雲がないのである。予報からしても、日中それは変わりそうもない。

0800、F-15の機動デモが始まった。レンズは500mm、あるいはテレコンを付けて700mm(実効1,000mm+)。これを手持ちで撮る。
0840にはF-2も登場。特徴あるヴェイパーを曳いてガンガンと動く。
この場所は北側で逆光だし、テレコン装備ではやたらとブレボケのリスクが高まるが、かまわず撮る。たった1コマでよい。「これ、どうだ」と言えるものがほしい。おそらくは6G+のターンをしている。背面を見せて背後に回り込むとき、光が当たるのだが、そのタイミングで丁度そこに木々があって、機影を隠してしまう。見通せる場所に移動しようとしたが、もう飛行機写真マニアであたりは一杯で、動けそうもない。
逆光を受け入れ、逆光ならではのシャドウの中のヴェイパーの白を得るために、ひたすら数を得ることに精を出す。しかし連写はしない。カメラの自動焦点にいくばくかの時間を与えてやりたいのだ。そうしないと、性能的に合焦しない絵ばかりになりがちだし、自分が撮った絵という自覚が薄れる。

総合予行は昼には終わった。翌日本番は曇の予報。湿度が高ければヴェイパーも派手になるだろうが、さっさと帰ることにした。築城往復は、港に迎えに来てくれた車を満タンにしても、4万円でお釣りがきた勘定だ。
JR特急で福岡に出、1800には羽田のターミナルの書店、ブックス フジの店長におごってもらったビールを飲みつつ次の出版計画を相談していた。あの書店には、本当にお世話になっている。
「瀬尾さんの本は、平積みにするとよく動くんだよねぇ」
「棚に入れ込んじゃダメか? オレも無名だなぁ。40年もやっているのにねぇ。広くはない書店で、場所をとらせて申し訳ないなぁ」
半分悲しい。社会的に無名であっても、もし実見して「おお、これはいい」と小社の書籍を買って下さる方が多ければ、それも微かながらも力量といえるのではないか。見れば分かってもらえるということに、じわりと嬉しくなるのである。


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